高気圧の酸素に満たされたカプセルでダイエット、あるいは疲労回復に。
健康器具としての高気圧酸素カプセルはスポーツ選手などが使用して話題になり、今では多くのクリニックで実際に体験することができます。
また医療機関においても高圧の酸素が治療目的で利用され、高気圧酸素治療として健康保険が適用される場合もあります。(参照:『高気圧酸素治療 – Wikipedia』)
さて今回紹介するのは、2014年11月17日にJAMA Internal Medicine(米国医師会雑誌 – 内科)のオンライン版に掲載された以下の論文です。
R. Scott Miller, M.D., from the Uniformed Services University of the Health Sciences in Bethesda, Md., and colleagues
『Effects of Hyperbaric Oxygen on Symptoms and Quality of Life Among Service Members With Persistent Postconcussion Symptoms: A Randomized Clinical Trial(持続的な脳震盪後症候を有する米軍所属軍人の症候および生活の質に対する、高気圧酸素治療の効果:ランダム化臨床試験)』
結論を先に述べておきましょう。
高気圧酸素治療は脳震とう後症状に対して効果的であったけれども、同じくらいプラセボ治療も有効だった。
高気圧酸素治療とはどんなもの?
発表された研究成果を受けて、アメリカの地元メディア(CBS Denver)が特集を組んでいます。英語が分からなくても、映像で雰囲気をつかむことができます。
(本記事は『Study: Hyperbaric Chambers For Concussions No More Effective Than Placebo』から)
…2015年12月現在、紹介していた映像にアクセスできなくなってしまいました残念。
雰囲気は、画像検索でみていただければ分かるかと。
「hyperbaric oxygen therapy」でGoogle画像検索した結果を見てみる »
研究の概要
目的
軽度外傷性脳損傷を患った後、持続的な脳震盪後症候(PCS; postconcussion symptoms)を呈する患者に対して高気圧酸素治療(HBOT; hyperbaric oxygen therapy)が補助療法として施されているが、その効果はこれまで明らかにされていない。
そのため、PCSに対するHBOTの安全性および有効性を、以下の3グループの治療成果を比較することにより検討した。
- 一般的なPCS治療のみ
- 一般的なPCS治療に加えて、HBOTを40回施す
- 一般的なPCS治療に加えて、HBOTを模した常圧プラセボ療法を40回施す
被験者、試験方法
複数の医療機関に通う少なくとも4ヶ月以上PCSを呈する米軍所属メンバー72人(イラクやアフガニスタンへの派兵経験あり)を上記3グループにランダムに振り分け、二重盲検法により試験が実施された。
試験前、中、後に質問票を用いた自覚的症状スコアを測定し比較することで治療成果を評価した。
結果
一般的なPCS治療のみを施されたグループと比較すると、HBOTあるいはプラセボ治療を追加して施されたグループの両者で治療成果が向上していた。
ただし、HBOT(高圧酸素治療)グループとプラセボ(常圧酸素治療)グループを比較すると、治療成績に有意な差がなかった。
考察
脳震盪後症候に対する高気圧酸素治療の効果は高圧の酸素にあるのではなく、非特異的な、プラセボ効果によるものだと考えられる。
付記
本研究で用いられた高圧酸素チャンバーはOxyHeal Health Group®によって提供されているようです。
効果をもたらすプラセボは、わかっていない
アメリカでは減圧症や一酸化炭素中毒、軟部組織感染症など14の適応症に対して高気圧酸素治療の適用がFDAによって認可されています。
しかしながら自閉症や脳卒中、片頭痛など適応外の治療にも保険適用されずに用いられており、未証明のまま効果が主張されているとFDAは警告しています。
今回の研究成果は、脳震盪後障害に対して高圧酸素の有効性を示せませんでした(=無効性を示した)が、治療そのものは有効であり、大掛かりな装置を使った儀式的療法や、装置を扱う医師や技術士との親密なやりとりなど、未だ特定されていない要因によって症状が改善することを見出しました。
何がプラセボ(=効果を示す主な要因)か?
研究者たちは、これを解き明かしたいと考えています。
高気圧酸素カプセルで得られるもの
高気圧酸素カプセルでダイエット、急速な疲労回復。
実際のところ、これらが主張する科学的根拠自体は怪しいような気もしますが、(プラセボ効果によって)実際に効くこともあるのではなかろうかと思います。
「根拠の怪しいもので金取るなよな!」って?
その効果は、決して小さくない料金を支払ったという事実によってより大きくなっているのかもしれません。
本当のところ、何がプラセボになるかはほとんどわかっていません。
「信じる者は救われる(可能性がある)」という世界が、冗談ではなく存在しているようです。