2015年10月26日の朝日新聞デジタルに、こんな記事が出ていました。
パチンコやマージャンなどを介護予防につなげる「アミューズメント型」「カジノ型」と呼ばれるデイサービスが関東を中心に増えている。一方で、こうしたサービスを提供する施設を介護事業所として指定しないで規制する動きも出てきた。
『介護施設に「カジノ」、効果は 疑似通貨でパチンコなど』
面白い。
デイサービスとは?
厚生労働省によれば「デイサービス(通所介護)」は、以下のように定義されています。
通所介護は、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、自宅にこもりきりの利用者の孤立感の解消や心身機能の維持、家族の介護の負担軽減などを目的として実施します。
利用者が通所介護の施設(デイサービスセンターなど)に通い、施設では、食事や入浴などの日常生活上の支援や、生活機能向上のための機能訓練や口腔機能向上サービスなどを日帰りで提供します。生活機能向上グループ活動などの高齢者同士の交流もあり、施設は利用者の自宅から施設までの送迎も行います。
介護保険制度が2000年に開始されて以来、デイサービスを提供する通所型の介護施設は増えに増え、コンビニエンスストアより多い(!)とされています。
大規模な施設・職員を備えたもの、普通の家を改装して少人数を対象としたアットホームな雰囲気を演出するもの、様々な事業者が知恵を絞ってデイサービスを提供してきましたが、コンビニよりも多いゆえにその顧客獲得競争も激しさを増しているとのこと。
既に廃業・倒産を決めた事業者もあり、生き残りを賭けた競争力の強化はデイサービス提供事業者にとって必須の課題。
どんな事業でも言えることですが、「差別化」がなによりも求められている現状があります。
幼稚園や保育園ではない
デイサービスでは食事や入浴といった生活の基本的な活動のほか、レクリエーションとして絵を描いたり、歌を唄ったり、体操したり、楽器を演奏したり、おりがみを折ったり、粘土をこねたり、お散歩したり、ドライブでお出かけしたり、と様々なアクティビティが職員の発案により提供されます。
しかし職員の負担とは裏腹に、こうした“ありきたり”の活動がサービス受給者、すなわち顧客たるお年寄りにとって必ずしも満足されていない様子。
高齢者をお年寄り扱い(≒子ども扱い)することが、得てして需要のないサービス提供に繋がっている現状があります。
新たなデイサービス像
結局のところ、介護だろうが福祉だろうがサービスを提供するのは「求められて」という需要側の意志があってこそ。従ってデイサービス提供者は何が求められているのかを知ることが不可欠です。
上記のような「アミューズメント型」、「パチンコ型」、「麻雀型」、「カジノ型」といった娯楽提供系のデイサービスは、初期投資こそ必要なものの、高齢者の需要を的確に捉えているという点で非常に有効な気がします。
ただ、介護事業所として指定しないで規制する動きとやらがあるそうで、こうなると介護保険が使えなくなって全額自己負担でのサービス提供となり、そこいらのゲームセンターやパチンコ、雀荘と変わらなくなってくる可能性もありますね。
ゲームセンターでは既に、顧客の高齢者割合が急増しているそうで。パチンコも、場外馬券売り場も、競艇場も、メイン・ターゲットとして高齢者を据えているようで。
至る所で見かけるそうした呼びかけや試みは、逆に顧客層の高齢化を証明しています。このままではマズイ、けれどいくら頑張っても若者は来てくれやしない…。
厚生労働省、娯楽提供事業者は高齢化社会における「ヒマつぶし」の死活的な重要性について、もっとよく理解する必要があるのかもしれません。
偽野病院モデル
老人にとってのサロン、井戸端、同好の士が集う場。そうした視点で世間を眺めてみたらば、真っ先に目に入るのは病院や医院など、医療サービスを提供するハコでしょう。
ならば、「カジノ型」と並んで「病院型」のデイサービスがあっても良いのではないでしょうか?
病院のニセモノ、医者のニセモノ、看護師のニセモノ、処方箋のニセモノ、薬のニセモノ…そうしたニセモノ群を用意した「偽野(にせの)病院」に来てもらい、医療サービス様サービスを提供する。
プラセボ製薬が提唱する「ヒトノタメ ニセモノダカラ デキルコト」を実現する場として、病院型のデイサービスがあれば面白いように思います。
病院併設のよくあるデイサービスではなく、本格的(ニセモノ)設備を備え、まるで本当に診察を受けているような疑似医療行為をサービスとして提供する。薬のニセモノは既にありますので、その他を適宜揃えて…。
法律や条例等確認したわけではありませんので、ご興味のある事業者さまは独自にご調査頂きますようお願い申し上げます。
生きがいを押し付けることはできない
生きる意欲と言いますか、生きがいのようなものを他人から(他人へ)押し付けることはできません。
「できるだけ長生きすること」が人生の目標とはなり難いように、「出来るだけ長く元気に」を基本思想として提供者目線で提供される介護サービスは高齢者不在の一律的サービス提供として批判・改善されるようになりました。
煙草を吸いたいお年寄りに「健康に悪いから」と禁煙させることは、果たして良いことなのでしょうか?
手先の機能を維持させるために本人がやりたいと思っていない塗り絵を強要することは、果たして良いことなのだろうか?
ユーザー・ファーストのサービス開発は、明示的な要求、言葉による訴えが本人の真意とずれる場合がある(「早く死にたい」と訴える老人は、本当に死にたいと考えている?、など)ためとっても難しいかもしれませんが、それでも、今後はサービス受給者であるお年寄りの需要が重視される傾向がより鮮明になると思われます。
すでに崩壊しかけている介護保険制度と、保険制度の枠内でガチガチに縛られた介護施設。これらを動かすのは、ユーザーたる高齢者に他なりません。
次世代に経済的負担を先送りしない決意と覚悟、またその責任をも高齢者が負うなら、超高齢化日本の未来は暗いばかりではないように思われます。
模擬を許さぬ生真面目さ
という自治体の態度を報じた日本経済新聞の社会面を見てすっころんだ記事が『週刊現代2015/11/14号』の「先崎学の吹けば飛ぶよな」というプロ棋士さんの連載コラムに載っていました。
将棋や囲碁も喧嘩になるから禁止されている施設があるとか。えぇ…日本人が持つマジメさってある意味滑稽よな、と。
押しつけの「年寄りらしさ」を、理想の「老人像」を、果たして規制をする側の人々は自身が高齢者となった際に受け容れたいのだろうか、と思わずにはいられない。いやはや、いやはや。
規制強化
『神戸市会だより』(平成27年12月号)という地域紙によりますれば、神戸市会本会議において下記の条例議案が可決したそうです。
神戸市指定居宅サービス事業者の指定の基準並びに指定居宅サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準を定める条例及び神戸市指定介護予防サービス事業者の指定の基準、指定介護予防サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準等を定める条例の一部を改正する条例
指定通所介護事業者などの適正な運営を図るため、条例を改正し、次に掲げるものを提供してはならないこととしました。
- 利用者に射幸心をそそるおそれのある遊戯を常時又は主として行わせること、その他通常の日常生活を著しく逸脱すると認められる形態で遊戯を行わせること
- 遊戯において疑似通貨を使用させることにより、利用者の射幸心を著しくそそり、又は依存性が著しく強くなるおそれのあるようにすること
- 賭博又は風俗営業などを連想させる名称又は内容の広告
パチンコ、ゲームセンター、場外馬券場、競馬場、競艇場、競輪場、あるいは風俗だってそうかもしれませんが、利用者の多くは高齢者になりつつあるように思われます。
日常生活のあまりの日常性に倦んでしまう日が来たらどうするか、今から考えてもまったく遅くはないですよ。ホントに。死ぬほどヒマな毎日を死ぬまで続けるか、生きがいや生きるよすがを何かに見出すか。
誰も与えてくれない(もしくは積極的に奪いに来る)のなら、自ら創出するしかありません。
パチンコ台の導入推進施策
神戸では規制が強化される一方、佐賀県鳥栖市ではこんな取り組みがニュースになっていました。
鳥栖遊技場組合(足立正孝組合長)が、みやき町の養護老人ホーム「南花園」にパチンコ台5基を贈呈した。無料で楽しめるとあって、連日入居者が列を作っている。
老人ホームにパチンコ台贈る 鳥栖遊技場組合(佐賀新聞、2016年11月21日)
良いですね。
「賭博」と異なり無料開放され金銭獲得を目的としないものだそうですが、
南花園の城野幸園長は「自分の部屋に閉じこもっていた人が積極的に出てきている。良い気晴らしになっているようだ」と効果を実感。足立組合長は「すごく喜ばれていると聞き、良かった。今後も協力していきたい」と話す。
老人ホームにパチンコ台贈る 鳥栖遊技場組合(佐賀新聞、2016年11月21日)
こんな風に実感されているようです。
恐らく、今後ますます重要性を帯びてくる人生の課題は「余暇時間の過ごし方」、「リタイア後のレジャーの充実」ということになってくるかと思います。その時に柔軟な姿勢でいられるか否かは“今”にかかっているのかもしれません。