医師法上の偽薬利用は処方箋の交付義務における例外措置(第22条1)として規定

医師の行為は医師法によって規定・制限されています。

偽薬の利用に関しては、Wikipediaに以下の記載がありました。

偽薬効果が存在する可能性は広く知られている。特に痛みや下痢、不眠などの症状に対しては、偽薬にもかなりの効果があるとも言われており、治療法のない患者や、副作用などの問題のある患者に対して安息をもたらすために、本人や家族の同意を前提として、時に処方される事がある。医師法にも、暗示的効果を期待し、処方箋を発行する事がその暗示的効果の妨げになる場合に、処方箋を交付する義務がない事が規定されている。

偽薬 – Wikipedia

具体的には、どのような法律の条文として規定されているのでしょうか。

第22条

該当の条文は第22条1のようです。

医師法第22条は、薬剤投与時の「処方箋の交付義務」およびその例外について書かれています。

第二十二条  医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし、患者又は現にその看護に当つている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。
一  暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
二  処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
三  病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
四  診断又は治療方法の決定していない場合
五  治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
六  安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
七  覚せい剤を投与する場合
八  薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合

医師法

偽薬利用の可否

医師が偽薬を用いてよい(それも、処方箋を交付することなく)という解釈は、第二十二条一の例外規定に依っているようです。

再度引用してみましょう。

一  暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合

明示的に「偽薬」などの文言が示されているわけではありませんでした。

日本国の法律は、プラセボ効果を暗示的効果であると想定しているようです。

これを期待する場合であって、暗示が解けてしまうことを避ける目的があれば、処方箋なしに(偽薬)を投与することができるのだと解されているのでしょう。

ここで(偽薬)とわざわざカッコ書きしたのは、(偽薬)として用いられるものが純粋に薬効成分を含まないものだけでなく、一般に処置すべき症候に対して何ら医学的根拠の無いビタミン剤等であっても(偽薬)として用いてよいと理解されているためです。

もちろん、賦形剤のみで成形されたプラセボ製薬の「プラセプラス」のような偽薬を用いることが検討されても良いかと思われます。

偽薬は医薬か食品か

しかしながら、上記の規定においては医師が「薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合」の話となっています。

現在のところ純粋な偽薬を薬剤として規定する法律的根拠はなく、どのような見地から判断しても賦形剤を成形したものは食品であろうと思われますので、純粋な偽薬の使用に際しては条文規定に従う必要もまたないのでしょう。

医師が患者に対して行う健康的生活に関する助言として、食事指導の一環として偽薬は奨励し得るのではないかとも考えられます。

とは言え偽薬の暗示効果は、医師がいて、薬剤師がいて、正当な医薬品流通経路に沿って手にしたというその事実がご本人にとっては重要であるとも考えられます。

従って、逆に、「偽薬でも(偽の)処方箋があってほしい」という要望があり得ます。というか、実際にそうした声が寄せられています。

ニセ処方箋

医師の処方箋を偽造して薬局にて行使し、薬剤の交付を受けた場合、刑事上どのような罪に問われますか。 – Yahoo!知恵袋

こうした疑問が提示される中、医師による虚偽処方箋を使った診療報酬詐取のニュースもあります。

虚偽の処方箋作成し診療報酬詐取…容疑の眼科医逮捕 大阪府警 – 産経WEST(2016.6.8)

悪意を持った虚偽の処方箋作成、および行使は糾弾されるべきでしょうが、「暗示的効果を期待する場合において」作成され、無論行使はされない偽薬処方箋についてはどうでしょうか。

「真実を記載した処方箋を出さない」という消極的判断は可能ながら、「虚偽の記載をした処方箋を出す」という積極的行為は、やはり難しいのかもしれません。

ただ、個人が個人の趣味において処方箋(というか、お薬情報を記載した書類)をデザインし、印字し、所持することには問題が無いようにも思われますので、「虚偽の記載をした処方箋が欲しい」という要望・課題の解決としてはそうした方針がとられるのがベターなのかもしれません。