アルツハイマー型認知症の進行抑制に非ステロイド性剤による慢性炎症治療が有効との報告

神経炎症、特に長期にわたり続く慢性炎症とアルツハイマー型認知症の関係が指摘されています。

慢性炎症は広く生活習慣病全般の原因とも考えられ、認知症に関しても遺伝要因だけでなく生活習慣と関わりがあり、だからこそ「認知症予防」の概念が提唱できるとされて目下研究が進められています。

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)

炎症という概念の誕生は早く、それを抑えるものとして様々な薬剤が開発されて「抗炎症薬」と呼ばれています。

抗炎症薬はさらに「ステロイド性」と「非ステロイド性」に分別されます。

ステロイド性抗炎症薬

よく効き、目に見えて炎症を抑える「ステロイド型」ですが、ステロイドは生体内にも存在する生理活性物質であるため、医薬品として外部から投与すると途端に生体内での産生が抑えられ、やめられない薬になってしまうこともあります。

また長期服用には副作用のリスクがあるものの、やめると離脱症状を起こしてしまうことから、積極的に用いられることは少ないようです。

非ステロイド性抗炎症薬

一方、炎症に関連する生理活性物質の産生を抑えるのが「非ステロイド系」の抗炎症薬です。

炎症メディエータ―産生酵素の働きを抑え込み、炎症を抑えます。

ステロイドのように劇的に効き、また激しい副作用をともなうことはありませんが、それでも大量投与や長期連用によって胃に穴が開くなどの副作用はあります。

抗炎症剤の抗認知症的用法を探る場合、おそらくではありますが、投薬が長期にわたることが想定され、またいずれも脳だけに投与することができず全身投与となる影響の大きさから、この非ステロイド性抗炎症薬(英語表記の頭文字を用いて「NSAIDs」と表記)が選択されています。

アルツハイマーと抗炎症薬研究の進展

アルツハイマー型認知症の原因として、脳細胞へのアミロイドβ沈着、プラークの形成が指摘されており、さらにこのプラーク形成と神経炎症の関連が示唆されています。

したがって、慢性的な神経細胞の炎症がアルツハイマー型認知症の遠因となっており、これをNSAIDsで抑え込めば認知症の発症予防になるのではないか。あるいは進行性の症状を止める治療に使えるのではないかと考えられます。

とはいえ、すぐさま人に対して何がしかの実験を行えるわけではなく、まずは人に近い動物種であるマウスを用いた動物実験が行われています。

認知症モデルマウス

詳しいところは分かりませんが、認知症モデルマウス…というのがいるそうです。

人間よりもかなり寿命の短いマウスですが、おそらくは短期間に脳細胞へアミロイドβ沈着が認められるよう改変されたか、選抜されたマウスなのでしょう。

現象解明のための武器

2016年2月26日に日本の理化学研究所がこんな発表をしています。

認知症モデルマウスの神経炎症を可視化
-COX1を標的とした認知症の解明・診断・治療への応用に期待-

http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160226_2/

肌が荒れていたり口の中が荒れていたりすると、赤くなっていたり浸出液があったりして炎症状態が可視化されるわけですが、脳内の神経炎症を肉眼で見ることはできません。

生物学の研究は何をおいてもまず「見る」ことから始まります。

DNAの遺伝暗号も、ワトソンとクリックによる二重らせん構造の可視化によって解き明かされました。

生体内現象の可視化研究は、認知症の解明においても重要な役割を担っています。

小規模マウス実験の成果

また2016年8月にはアルツハイマー型認知症哺乳類モデル(ここでは遺伝子操作マウスだけでなく一部はラットも用いられたようですが)に対して、特定のNSAIDsが行動レベル、細胞レベルで奏功したとされています。上記可視化研究と直接の関係は無さそうですが…。

Fenamate NSAIDs inhibit the NLRP3 inflammasome and protect against Alzheimer’s disease in rodent models

Nature Communications 7, Article number: 12504 doi:10.1038/ncomms12504

フェナメイト(メフェナム酸)は臨床上一般に用いられている薬剤であることから、人へ使用する際の障壁は比較的小さいだろうと研究者は語っています。

ただ、もちろんマウスやラットに対する効果をもって直ちにヒトに応用できるわけではない、とも。

いずれにせよ2016年現在、認知症診断・予防・治療に関する抗炎症薬の線は積極的な研究対象となっているようです。