WHO(世界保健機関)が代替補完療法として位置づける「カイロプラクティック」と呼ばれる手技療法は、日本でも市民権を得ているのではないでしょうか?
ギリシャ語で「カイロ」は「手」を、「プラクティック」は「技術」を意味するそうです。
カイロプラクティックは有効か?
カイロプラクティックを体験した人の中には「効果があった」と感想を述べる人もいますし、もちろん施術者であるカイロプラクターは「カイロプラクティックの手技は健康増進に有効だ」と考えているはず。
カイロプラクターの中には、
と主張される方もおられるでしょう。
しかし、現代科学的にはプラセボ(偽行為)を用いた盲検試験を行わなければ、カイロプラクティックを含む医療代替行為の有効性を証明することは出来ないとされています。
カイロプラクティックの「プラセボ」?
錠剤など一般の医薬品の効果を判定する臨床試験においてはホンモノと見分けのつかない偽薬(プラセボ)を使用し、被験者がホンモノかニセモノかわからないようにして服用させます。
「ホンモノだから効くはずだ」とか、「ニセモノだから効くはずがない」などの思い込みを排除するためです。
しかし、手技的医療行為の効果を判定する際にはこうした「プラセボ」なるものを用意することができません。ホンモノとニセモノが明らかに違うと、被験者にはそれが分かってしまうためです。
そうした思い込みは試験結果を大きく歪めてしまいます。
このような「プラセボ」を用意できない問題は、良くも悪くもカイロプラクティックの効果や有効性を保証してきたのではないでしょうか?
「プラセボ」をご用意しました
そんな現状に嫌気が差したかどうか知りませんが、ノルウェーの研究者がカイロプラクティック用の「プラセボ」を用意したという記事がありましたのでご紹介。
『Fake chiropractic treatments make for better research (カイロプラクテイックの偽行為は、よりよい研究に役立つ)』と題するこの記事によれば、カイロプラクティックの手技において本質的な行為を以下のものと捉えています。
カイロプラクティック療法においては、背中と首の神経系を刺激することを眼目とする。(意訳)
そして、これらを巧妙に排しつつ、被験者には「適切な施術を受けている」と思い込ませる偽行為の開発に成功したと述べられています。
肩や臀部への刺激では、カイロプラクティック効果は最小限に止められる。しかしながら、施術を受けた人はそれらを適切なカイロプラクティック的行為であると認識(誤認)する。(意訳)
実際に70名の被験者を対象にホンモノのカイロプラクティックと肩やお尻への施術を行い、こうした行為がいずれも「適切だ」と思い込ませることに成功したと述べられていますが、「真カイロプラクティック」と「偽カイロプラクティック」の有効性の差までは言及されていませんでした。
カイロプラクティックか、ただのマッサージか。それが問題だ?
ことほどさように何らかの有効性についてプラセボ効果を排除して捉える事は難しく、上記の方法でもまだまだ排除し切れていないのではないかと考えられるわけで。
首まわりを主要な手技の対象とした「真カイロプラクティック」経験者なら、「偽カイロプラクティック」を施された場合に違和感を覚えるでしょうし、施術者にとっては完全に「真」、「偽」がわかる単盲検試験である点も問題と言えるでしょう。
こうして考えてみるに、カイロプラクティックや整体の施術者がいかなる主張をしようとも、それらの医療的行為からプラセボ効果を排除することは不可能だと思われます。
プラセボ効果との合わせ技で
カイロプラクティックの真の効果からプラセボ効果を差っ引くことは出来ない。
従って、「カイロプラクティックの効果はプラセボ効果でしかない」とする批判に対して有効な反論は不可能だ。
それを認めるところから始めてみたいと思います。
それでも、有用であると。
そんな疑いが頭を擡げるかもしれません。
でも、効果を感じたのならそれでいいじゃないですか?そこに科学的な理論や納得のいく説明が存在しなくとも、その「感じた」感覚はあなたにとってすごく大事なものです。
最も大事なことはその感覚であり、科学的実証性は二の次、三の次。あるいは実証性なんてなくたって構いません。
紹介記事の目指すところと真逆ではありますが、目の前にある物事・感覚を素直に信じてみることが科学性より大事であるとプラセボ製薬では考えています。
科学的に証明された物事に価値が宿るのではなく、当人が感じたその感覚こそが価値である。
そんな風に思います。
「偽カイロプラクティック」応用編
上記記載は、2015年に公表された論文に基づくものでした。
2016年、同研究者が偽カイロプラクティック手法を応用して「migraine(片頭痛)に対するカイロプラクティックの効果」を検証しました。
…よく見ると2015年の論文でも「migraine」の記載がありますね。
というか、よくよく見ないと違いが判らないほどにタイトルが似通っています。2015年公表分と2016年のものとの違いは「a study protocol of」が消え、「three-armed」が挿入され、「controlled」の記載位置が変更になったところ。
2015年の論文は「研究プロトコルの開発」が主眼がおかれ、2016年論文は「より実際的な効果の検証」が主目的となっているものと思われます。
検証結果
さて、結果はどうだったのでしょうか。
ランダム化された104人の被験者を対象に臨床試験が実施されましたが、片頭痛治療に関する「真カイロプラクティック」施術の効果は、脊髄を刺激しない「偽カイロプラクティック」施術の効果と変わらなかったようです。
全きプラセボ効果であった、と。
海外の代替医療情報ウェブメディアもいくつか取り上げていますが、日本ではあまり話題となっていないようです。
今回の研究ではカイロプラクターにとってネガティブ(消極的)な結果が出たためかどうかはわかりませんが、とにかく。
検証可能な偽手法を手にしたカイロプラクティック業界は、さらなる試練と発展の契機を得たと思って間違いありません。