汗が冷えて腹痛・下痢になる原因と対策

冷や汗をかく原因は様々でしょうが、夏の暑い日に大量に汗をかき、その汗によって身体が急速に冷えてお腹が痛くなり下してしまって冷や汗をかきながらトイレへ駆け込むなんてことも…。

これは、笑い話でもなんでもなく。現実に起こりうる、解決・解消すべき問題です。

汗の働き

人間を含む動物のカラダは、それはそれは精巧につくられています。汗もまた、そうした精巧なシステムを維持・管理する非常に重要な役割を担っています。

いのちの要、水

中でも、大部分の哺乳類など陸棲の恒温動物は水と熱をうまく調節することで生命を維持しているといっても過言ではありません。

汗(≒水)を使って、熱を外に出し、体温のオーバーヒートを未然に防ぐことは必要不可欠な生命システムの働きになっています。

ちなみに、変温動物である爬虫類や、恒温動物でも鳥類や水棲の哺乳類は汗をかかないそうです。

陸に生きる哺乳類が進化の過程で身につけた、体温調節のための新しい機能が発汗作用であるといえそうです。

ヒトにとっての汗

さらに言えば、イヌやネコ、あるいは他のサルと比較して明らかに毛が薄く、熱を逃がすのが得意にみえるヒトは、非常に優れた発汗機能を有しています。

進化論的には「長時間走り続けてもオーバーヒートしないように、体温調節(低下)機能を向上させた」と説明されるようです。

ただし、日本でも7月や8月の真夏日になると脱水症状や熱中症、日射病で多くの方が病院へ搬送されたり亡くなったりしていることからも分かる通り、万全の機能ではありません。

生命維持に不可欠な水分を利用して、これまた生命維持に不可欠な体温調節を行うという重大なお仕事は、いつだってトレードオフの関係にならざるを得ません。

暑い日には、適切な水分補給を。

汗が冷え過ぎる?

さて、汗をかくことで体温が上がり過ぎないように調節するのが私たち人間にとって非常に重要な働きであることはわかりました。

でも、汗をかきすぎて脱水状態になるだけでなく、汗のかきすぎによる身体の冷やし過ぎも問題になります。

どうして冷えすぎてしまうのでしょうか?

汗による身体の冷え方

水風呂に浸かった時、身体はキュンキュンと冷やされます。この時の熱の移動は単純で、水に接している皮膚から水へと熱エネルギーが移動します。難しい言葉で言えば顕熱の伝導と言えるでしょう。

一方、汗が蒸発して身体が冷えるときはヒヤ~っと冷やされます。この時に起こっていることは案外複雑で、液体の水が気化して水蒸気となり、気化潜熱の分、熱エネルギーが外気へと逃がされます。

さて、どちらが効率よく熱を外部へ逃がす方法なのでしょうか?

…もちろん水風呂の温度や外気温によって異なるため、上記の情報だけで答えは出ません。

ゆで卵の時短作り方

同じ問題を逆の視点から見るために、ゆで卵を茹でてつくる時と、蒸してつくる場合の違いを調べてみましょう。

「茹で」の場合、熱水に浸かり切るように卵を入れることで、顕熱を伝導させることによって卵に熱を加えていきます。

一方「蒸し」の場合には、熱水の量は少量で卵の大部分は水に浸かっていませんが、発生した水蒸気が卵の表面で冷やされ液体の水となり、同時に凝縮潜熱を卵に加えていきます。

どちらが速く卵を固まらせるでしょうか?

すなわち、どちらがより効率的に卵に熱を加えられるでしょうか?

条件によって異なる点は幾つもありますが、熱伝導効率の面で言えば、圧倒的に「蒸し」が優れています。

どちらが美味しくなるか?

それは、実験してみてのお楽しみ…。

カラダを冷やし過ぎる汗

話を汗に戻しまして。

汗は、卵を蒸してゆで卵(蒸し卵?)をつくる場合と同様に、非常に効率よく体熱を外気へと逃がしてくれます。

この効率の良さは、人類数百万年の歴史を生きぬくうえで非常に重要な役割を果たしました。

しかし、現代においては厄介な問題を引き起こす原因ともなっています。

身体が冷えると下痢になるメカニズム

暑い。汗かいた。涼みましょう。

ほんの数十年前までは、涼むと言えば木陰や屋内に入って直射日光を避け、はたはたと人力で風を起こすくらいのものでしたが、現代では電動の扇風機やクーラー、冷房の効いた室内へ移動することが多くなりました。

しかし、一旦かいた汗は皮膚から再吸収する訳にはいきません。体熱を気化潜熱として奪いながら皮膚表面から蒸発するのを待つだけです。

エアコンなんてない時代にはその効率の良さがヒトの健康維持に大いに寄与したのでしょうが、熱調節を電気に頼る現代では、過剰な冷却、体温低下を引き起こしてしまいます。

腹痛・下痢

既に述べているように、ヒトの生命維持システムの要は体温調節機能です。

高体温も問題を引き起こしますが、低体温もまた問題を起こします。恐らくは生化学反応の効率低下や免疫力の低下などが主因となり、様々な症状として現れます。

36~37℃という一定の体温を維持するため、汗によって冷え過ぎた身体は温められなければなりません。それも、急速に。

汗が冷えて腹痛や下痢になるのは、カラダを急速に温める作用の結果であると考えられます。

簡単に言えば以下の通り。

  1. 汗が冷えて体温低下
  2. さらなる体温低下を防止するため、末端部への血流抑制
  3. 結果として、体幹部への水分貯留
  4. 熱効率の向上を図るため、水分排出(=尿量増加、下痢)
  5. 熱産生のため、消化液を使って中和熱を産生(=下痢の元)
  6. 熱産生のため、腸平滑筋を運動(=腹痛、下痢)

もちろんこれらは「仮説」ですので、科学的な根拠があるというわけではありません。

ただ、下痢という目に見える不快な結果や「お腹を壊す」という慣用表現の感覚的な悪さに流される事なく、身体の必死な生命維持活動をどうか生温かく見守ってあげてほしいと思います。

高機能衣料品の隆盛

資本主義システムの下、ヒトは快適な生活を送る方法を日々追求しており、その発展スピードはすさまじく。

冷感を伴う優れた繊維製品が手ごろな値段で手に入るとあらば、利用しないではいられません。

ただ上記の通り、「超効率的冷却装置たる汗」と「エアコン」を既に手にした我々にとって「高機能インナー・下着」が諸刃の剣であることも確かなようです。

あの製品で冷え過ぎた

売れ筋商品はその利用者が非常に多く、多様であるため、問題が現れやすいとも言えます。

とってもエアリーで着心地よく、ムズムズすることもない冷感インナーの代表格たるあの製品を着ていると、汗で身体が冷えすぎてしまいお腹を壊してしまった、など。

冷感素材の高機能インナーで日々の快適性を採るか、暑気をもろに感じながら下痢という身体的ショックを避けるか…。悩ましい問題です。

解決策・対処法

濡れた物が皮膚であれ衣料品であれ、それが乾く時、つまり水が気化する時、相応の熱を奪っていきます。

新素材で解決するか?

宇宙の法則を乱して物理法則を捻じ曲げることができないのであれば、「カラダを冷やし過ぎない超快適冷感インナー」の開発は困難を極めるでしょう。

冷えてくると構造変化をおこし、蒸発する前にある経路からポタポタと汗が滴るような仕組み、すなわち「流れる汗」を再現する機構があればいいのかもしれませんが…。

単純な解決策

今のところ、冷やし過ぎないようにするには個々人が「身体の近辺で蒸発させない」ようにするしかありません。

パッと思いつくのは、「拭く」や「脱ぐ」。それから、「絞る」。あるいは、「新たに重ねる」。

冷感トレーニングは非推奨

クーラーがガンガンと効いた室内の冷気は、身体にショックを与えます。

下痢による急速な体温向上機能など、数百万年を生き抜いてきた生命維持機構としてショックに即時対応するメカニズムはあるのですが、生物の進化は現代人の気分の快適性までは考慮してくれていません。

敢えて氷でキンキンに冷えた飲料を飲み続けたり、水風呂に長時間つかることで体熱産生機構を鍛えることができるのか否かは分かりませんが、マゾヒスティックな修行やトレーニングが好きな方以外はおやめください。

下痢になったその時は

下痢のすごさはどれだけ健康体であっても、日々健康に気遣っていても、生命を脅かす刺激に対して即時反応できるその反応性の良さにあります。下痢止めなどの薬で止められるものでもありません。

出し切るしかないのです。

出し切ったら、冷えた身体を温めるその作用を邪魔しないように、ぬるいお湯やなんかを飲むと良いかもしれません。

カラダを冷やしてしまったその状況を思い起こし、次の機会にそのショックを避けられるように対策を講じましょう。