先端医療に関する記事曰く。
ここまで来た医学の進歩 ガン・白血病・脳梗塞ほか まもなくすべて治る!
『週刊現代』平成28年2月6日号
ほへーと思って読んでいたら、気になる記載がありまして。
日本が誇る重粒子線治療
気になる部分を引用。
なお、放射線治療では、照射していない箇所の主要まで小さくなる『アブスコパル効果』と呼ばれる現象が時々起き、免疫が関与していると考えられます。
『週刊現代』平成28年2月6日号
なにそれ?初めて聞いたけれど、なんだかプラセボ効果みたい…。
プラセボ効果
プラセボ効果は「思い込みの効果」などとも言われたりしますが、何のことはない。
科学の言葉では説明がつかない治癒現象の原因として、それなりに科学しているように見える仮想の概念を置いたものに過ぎません。
人はその生を全うするために、自らを治癒する力を有していると考えてもおかしくはないでしょう。何のきっかけで発現するにせよ、科学がそれを説明できる必要も必然性もありません。
不可解な現象に合理的な説明を付けたいという知的欲求は科学を大いに発達させましたが、科学のコトバで説明できなければ存在しないと考えるのは人類の傲慢でしょう。
もちろんスピリチュアルや神秘主義に走る必要もありませんが、それはそれとして。
アブスコパル効果
さて、アブスコパル効果(abscopal effect)。
- アブ(ab):遠くに、離れた
- スコパル(scopal):狙いを定めて、ターゲット
そんな意味の言葉だそうで、先述したとおり放射線や重粒子線を当ててもいない遠くの場所にあるがん病巣に狙いを定めて縮小する例があるようです。
現在のところ免疫系の関与が指摘され、アブスコパル効果を人為的に起こすことができるのではないかと研究がすすめられています。
ただ、今の内にちゃんとやっておくべきことがあります。
それは、アブスコパル効果がプラセボ効果でないことを確認することです。
非放射試験の実施
原著論文等には当たらず調査不足なのであまり大きな声では言えませんが、どんな医療技術にもプラセボ対照試験が実施されるべきでしょう(既にされていたらすみません)。
放射線治療や重粒子線治療における主要な効果因は「線照射」であると考えられます。したがって、これらの医療機器に効果があることを示すためには「線照射の有無のみ」によって何らかの差異を見出されることを証明しなければなりません。
ここでプラセボ(偽治療)に当たるのは、ただ単に放射線を照射しないことではなく、治療機器に実際に入り、線照射の有無を知らせない二重盲検法にて医師および検査技師が実際に検査行為を行い、それでいて線照射をしないことを試験期間中繰り返すことです。
ここには倫理的な問題と統計的な問題がありますが、ややこしいので省略。
こうした比較試験を実施しないことには、永久に古代のまじない・祈祷療法以上のものであると称することができません。
それがどれほど科学的に見えようとも。
実際に疑念あり
実際、Wikipediaの「重粒子線がん治療」項にも2015年8月8日の毎日新聞ウェブサイト記事より引用されていますが、
日本放射線腫瘍学会の調査では、前立腺がんなどにおいてエックス線による治療と比較し、優位性が確認できなかったという報告が示された。
理由としては、治療計画に統一性がなく施設ごとに異なっていることや症状や年齢の違いにより、統計学的に有意なデータが得られなかったためとされる。
などと、その効果の期待に比した大きさには疑念が呈されています(元サイトは2016年1月現在期限切れ)。
もちろんこれは比較対象が光子線の仲間であるX線による治療なので上記のプラセボ効果の話とは異なりますので、ご参考まで。
ただ、このまま突き進むといずれ自己弁護、自己正当化の理論武装にがんじがらめになる可能性がなきにしもあらずなわけですので、対処はお早めに。現実を見るなら、今すぐに。
研究は踊る、されど…
まぁでも、発展段階の先進医療は研究に熱がこもっていて面白いですね。夢がある。
夢があって、そのこと自体に価値がある。治療効果はおまけみたいなものかもしれない。ニュースバリューもあって、だからこそ週刊誌も採り上げる。そんな気もします。
重粒子線がん治療については、以下のサイトにわかりやすく図示され、動画も用意されています。
イメージとしては、ミクロの弾丸を超高速でがん細胞だけを狙って撃ち抜く治療になるのでしょうか。すごい。
研究論文に当たるなら
研究論文等は、以下のサイトの「医療従事者向け」ページから読むことができますね。
保険適用のはなし
現状、300万ほどの費用が重粒子線治療にかかるとされていましたが、保険適用できませんでした。
しかし、『週刊現代』記事中にもあるように、一部のがんについて保険適用が妥当と判断されたようで、今後利用が広がる可能性が高くなっています。
参考:厚生労働省 >>> 先進医療について > 第38回先進医療会議 > 資料 先-5-4
まぁ、よく見ると怪しげな記述(「保険導入しないこととしてはどうか」など)も散見されるのですが…。
人体実験の段階
平たく言えば、先進医療とは、効果が不明の医療に関する人体実験であるともいえ、当然のことながら非常に監視が厳しい中にありつつグレーゾーンにも足を突っ込まなければならないわけです。
でも、それは医学の発展には欠かすことのできないステップとも言えるでしょう。
マウスの実験では、さまざまな期待される医薬がでてきているようです。
こうした治療もまたヒトに応用され、プラセボとの対決を勝ち抜くことが出来れば日の目を見るのでしょう。それが来年か再来年か、はたまた十年後か二十年後かは誰にもわかりませんが。