2019年現在、科研費データベース上で東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科が関与するプラセボ効果研究には以下のようなものがあります。
研究期間(年度) | 研究課題 |
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2010 – 2014 | 鍼はプラセボか?―世界初のダブルブラインド鍼を使って鍼の臨床効果とその機序に迫る |
2015 – 2018 | 鍼のプラセボ対照ブラインド化臨床試験に潜むプラセボ効果とノセボ効果の検証 |
2016 – 2019 | 肩こりへの鍼は本当に効くのか?-ダブルブラインド・プラセボ対照ランダム化臨床試験 |
2017 – 2020 | 非特異的腰痛患者に対する鍼の効果-世界初のダブルブラインド・プラセボ対照臨床試験 |
東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科では、プラセボ効果研究の第一人者であるTed J. Kaptchuk博士を客員教授として迎え、共同研究をされています。
研究代表者
高倉 伸有
矢嶌 裕義
高山 美歩
研究紹介
2010-2014
鍼はプラセボか?―世界初のダブルブラインド鍼を使って鍼の臨床効果とその機序に迫る
鍼の効果を検証する臨床試験において、鍼の穿刺を伴う行為を実際に行っているか否かは施術者にとっては明らかであった。この場合、プラセボ効果を排除して鍼治療の効果を科学的に検証することができない。
そこで、上記研究者らは二重盲検法を実施するための「ダブルブラインド鍼(プラシーボ鍼)」を開発し、施術者と患者とが共に穿刺の有無を判定できないように工夫を加えた。
プラシーボ鍼及びダブルブラインド用鍼セット(特許4061397)の特許権者は研究代表者の高倉教授と、東京有明医療大学の他に各種専門学校を運営する学校法人花田学園。出願日が2000年5月となっており、2020年5月には特許権が終了。
ダブルブラインド鍼開発の経緯については研究成果報告書(PDF)に詳しい。
なお、研究紹介文中に登場する「EOG滅菌」とは「酸化エチレンガス滅菌(エチレンオキサイドガス滅菌)」のこと。低温で微生物を殺滅できるとのこと。
本研究では、肩こり患者を対象として臨床試験を実施した。
以下、研究成果報告書(PDF)より引用。
- 治療をしない場合よりも、鍼治療を施した方が肩こり感は改善した
- 針が刺さっても刺さらなくても一定の肩こり改善効果が認められた
- 肩こりの部位に針を刺して治療した場合にのみ、皮下血流に変化が認められた
以上の事から、『「鍼治療を受ける」ことによって肩こり感は和らぎ、特に鍼を刺す治療であれば血流改善の効果も期待できることを示唆する』と結論。
2015-2018
鍼のプラセボ対照ブラインド化臨床試験に潜むプラセボ効果とノセボ効果の検証
2014年までの研究成果を以下のように総括。
私たちは世界初のダブルブラインド鍼を開発し、この鍼を用いて肩こりに対する鍼のプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を行ったが、従来の包括解析によっては鍼の特異的効果は見出せなかった。しかし鍼による刺激感覚のインパクトは大きく、患者が鍼治療を本物と認識すると治療効果が大きくなり、偽物と認識すると小さくなる傾向が見られた。このことは、包括解析では患者由来のプラセボ効果やノセボ効果の影響を受け、実際の臨床で得られる治療効果を見逃す可能性があることを意味する。
この総括はダブルブラインド鍼開発の動機が「鍼治療の効果の有無を科学的に検証する」ことではなく、「鍼治療に効果があることを科学的に立証する」ことである事実を物語っています。
こうした状況を受けて、本研究の目的は以下の通り。
そこで本研究は、前述の研究と同様の方法による肩こりに対する鍼のRCTを行い、患者にその治療を本物、あるいは偽物と思わせることによって生じるプラセボ/ノセボ効果について検討し、実際の鍼治療の臨床現場において得られるリアリスティックな治療効果に迫ることを目的とした。
下記のような6グループを対象に試験を実施予定。
「本物」通知 | 「偽物」通知 | |
---|---|---|
刺入鍼 | ① | ② |
圧迫鍼 | ③ | ④ |
非接触鍼 | ⑤ | ⑥ |
偽鍼の本物感を追求するなどに手間取り、研究遂行に遅れが生じた模様。2019年現在、最終報告書は未提出。
2016-2019
肩こりへの鍼は本当に効くのか?-ダブルブラインド・プラセボ対照ランダム化臨床試験
改めて、2014年までの研究を総括。
鍼先が皮下組織に到達する浅刺用(5mm)の刺入鍼を用いた治療では、鍼の特異的効果は見出せなかった。
これを受けて、新たな研究を計画。
本研究では、鍼先が骨格筋に到達するダブルブラインド用の10mm刺入鍼を用いたランダム化プラセボ対照比較試験を実施して、鍼の有効性を医学的に検証する。(中略)これらにより、鍼には真の治療効果があるのか、あるいはプラセボ効果に過ぎないのかを検討することとした。
鍼先の長さを5 mmから10 mmに変更すれば、鍼の特異的効果が見出されるかもしれない。しかし、鍼の準備に時間がかかり実験を開始できない。
2019年現在、2018年度の実施状況報告書が未提出。
2017-2020
非特異的腰痛患者に対する鍼の効果-世界初のダブルブラインド・プラセボ対照臨床試験
これまでの「肩こり」から離れ、「非特異的腰痛」に対する鍼の効果をダブルブラインドで検証するとのこと。
ただし、鍼の開発が難航。
2019年現在、2018年度の実施状況報告書が未提出。