日常的に短歌を嗜むわけではありませんが、この題に惹かれて読んでみました。ヤナギダカンジ『プラシーボ』。
短歌で綴るストーリー
本屋で見かけてパラパラっとめくってみたらば、「あら、何だか面白いじゃない」と思える一節にであえるかもなこの本には、実は周到な設定が用意されておりまして、プロローグと登場人物欄を読んでおかなければ、何となくストーリーを追えなくなります。
と言うか、短歌を連ねることでストーリーを成立させるというのがむしろ身近でないので、多くの人にとっては新しい試みになるのではないかと。
まぁでも、かっちりと行間を埋めきる説明的なストーリーがあるわけでもないので、読もうと思えばその一端を取り出して矯めつ眇めつすることもできるでしょう。
あー俺何であんな事 言っちゃったんだろ開きアジ(大)はなし聞いてる?
(54ページ)
頁右下に描かれた鯵の開きを眺めつつ五・七・五・七・七の短歌調で朗読してみれば、思わずニンマリしてしまいます。
秀逸な設定
黒猫が横切ると不吉だとかなんとかの迷信だかジンクスだかに則り、黒猫の能力として設定されるそれは、人生ののっけから運を奪われた男を生み出し、黒猫自身にも後悔を生じさせます。
とは言え主人公がダークサイドに落ち込んでしまう訳でもなく、ほんのりと幸福感を漂わせているのが良いですね。
プラシーボとはこれいかに?
ちなみにタイトルの『プラシーボ』は“主な登場人物”として紹介されています。
プラシーボ…偽薬、タイトルを熱演
タイトルを…熱演!!
という訳で、本文中では特に現れたり重視されているわけではありません。あくまで、タイトル要員みたいです。オモロイですね。(いや、裏表紙にも密かに西島忍氏の筆になるご尊顔が掲載されているので、それ以上の働きをしていますね。)
ただ、頭痛薬やら神に手渡されたトラベルミンやら、あとは主人公が「毒学部毒学科卒毒剤師」だったりして薬関係のワードがちょくちょく散見されたり。
ヤナギダカンジ氏は薬学部卒の薬剤師…かどうか定かではありませんが、もしかするとそうなのかもしれませんね。
第七回フーコー短歌賞大賞受賞作品
ヤナギダカンジ氏は当作品『プラシーボ』で第七回フーコー短歌賞大賞受賞作品を受賞されているそうです。
業界事情には疎いのですが、「口語短歌」というジャンルで高い評価を受けているようです。
短歌短歌している短歌より、普通っぽい短歌に触れてみたい方、あるいは短歌なんて興味ないけど猫好きなあなたにオススメの一冊。