認知症の問題行動やまだらボケ、その原因は水不足…?
知る人ぞ知る、もとい、もっと多くの人に読まれるべき“介護マンガ”、『ヘルプマン!-25-(認知症予防編)』(著:くさか里樹)でも紹介された「みず」を用いた介護の方法を紹介します。
認知症重度化予防実践塾
『ヘルプマン!』の舞台である架空の都市「ことぶき市」出身の元・宇宙飛行士、汲田さんは地元にある地域包括支援センターからの連絡で父親に認知症の疑いがあることを知らされます。
久々に面会した父親の行動や荒れ果てた家の状況を見るに、父親はやはりどう考えても認知症…。
一晩実家で過ごした汲田さんは理解不能な父親の言動に対してうまく対応できず、早々に在宅介護を諦めます。
ここで宇宙滞在経験のある汲田さんは、長年の訓練で培った問題解決能力を活かして認知症という大きな社会問題の解決を目指しはじめます。手始めに、家族介護を専門職の立場から見てきた経験のある市の職員から促されていた「認知症重度化予防実践塾」へ参加することに。
その資料にはこう記載されていました。
「脱水を避け、バランス良く栄養を摂取して運動をする」
宇宙飛行士としての経験から言ってもとても大切な事だけれど、そんなことでこの社会問題は解決しないでしょう?半信半疑のまま参加してみると…。
水の大切さを説く講師
話の続きは実際にマンガを手に取り確かめていただくとして、この「認知症重度化予防実践塾」で最も大切なこととして講師が訴えていたのは、「認知症の人には水をたっぷりと飲ませること」でした。
たっぷり、1,500 cc~2,000 cc(1.5リットル~2リットル)。
一日当たりこれだけの水分を摂る必要があるそうです(ただし、心臓の弱い方は除く)。
なぜなら、お年寄りは水を体内に保持しにくく、簡単に脱水状態に陥ってしまうためです。脱水状態で人はフラフラと意識レベルが下がってしまいます。これは脱水症状と呼ばれる症状です。
こうした水分不足による認知機能の低下が慢性化し、あたかもボケが深まったかのような言動を取ってしまいがちなのは、認知症高齢者が「喉が渇いた!」という自然な欲求さえも自覚しにくくなっているから。
適度な水分摂取の重要性に対する認識や、喉が乾いたら水を飲むという発想が薄れてきた方には介護者が適切な水分保持のケアを摂ることで認知症の症状が改善するようです。
ある場合には、劇的に。
水で認知症は治るのか?
話題の新書などで「水を飲めば認知症は治る」といった類の記載を目にしますが、これは委縮した脳や機能停止した脳細胞が復活する、すっかり症状が無くなってしまうという意味での治るではなく、認知症の痴呆症状が軽くなるといった意味に捉えた方が良さそうです。
また認知症になっていない方、軽度認知障害(MCI)の方が毎日たっぷりと水を摂ったからといって認知症にならず、完全に予防できる訳でもありません。
認知症はやはり完治しないし、完全に予防する方法もないもと考えておいた方が良さそうです。
しかしそれでも、認知症の中核症状と呼ばれる病状よりも、脱水症状によって認知レベルの低下がみられる場合があることを覚えておいて損はないでしょう。
漫画では適切に紹介されていたように、水分摂取は認知症の重度化を予防するための大きな一歩であるということです。
水を飲まない理由
今でも大変な下の世話が、水を飲ませることでより大変になってしまう。だから、水の提供は最小限に抑えよう。
そんな理由で敢えて水を勧めない、飲ませたくないと思うのも当然のこと。
ところ構わず家中でおしっこをしてしまう方や、夜間の失禁・頻尿、夜中に何度も何度も何度も何度もトイレに起きては寝る暇を与えてくれない認知症の方もいて、
と思われるご家族もおられるかと思いますが、水をたっぷり飲んでもらうケアを実践された方からは、こんな声も上がっているそう。
脱水症状からくる状態の悪化が適度な水分摂取によって改善され、「認知症の問題行動(BPSD)」とされていた行動が無くなってきたという感想は多くの実践者から聞かれるそうです。
たっぷりと水を飲んでもらう方法を頭ごなしに否定せず、物は試しと気軽に実施してみるのが良いのかもしれません。
ここで少し脱線して、おしっこをもちいた健康管理について。
尿量・尿色・尿臭にも注目
おしっこは健康のバロメーターです。尿が出ていないのは、脱水症状の兆候かもしれません。
逆にオシッコの量が多くなるのは摂取する水分の量が多すぎるのかもしれませんし、身体の機能として適切な血中のイオンバランスを考慮した結果かもしれません。
また高血圧のお薬には尿量を増やして脱水症状を促してしまうものがありますので、可能であれば利尿剤・降圧剤を減薬することを医師・薬剤師にご相談ください。
病的な尿量過多となる方はそれほど多くなく、下に紹介する経口補水液などで適正量を飲んでもらうことを試みてください。
さらに、尿の色や臭いも腎臓の機能や水不足、飲み過ぎを判断する指標となります。
色が薄すぎたりしませんか?泡立ちはあり過ぎませんか?また、いつもと異なるニオイはありませんか?
入るを量りて出ずるを為す
こちらは経営の要諦を伝える故事でオシッコのこととは全く関係がなくお金のはなしなのですが、水分摂取も出ていくところまでしっかりと見る必要があることは変わりありません。
水を飲んでくれない場合
さて、冒頭に触れた『ヘルプマン!』では汲田さんが喉が渇いているはずの父親にどうしても水を飲ませることができない場面が描かれています。
同じ塾の受講者からはこんな声も。
水を飲むことを嫌がって飲んでくれない場合、外部の人に頼んで適切な行為として促してもらう他、色々な手立てが考えられるでしょう。
今は脱水症状を緩和するための適切なイオン・バランスの水として「経口補水液」なるものが販売されているのでこれらを用いてみたり。
ゼリー型だと、また違ったものとして提供できます。スプーンに乗せて含んでもらうといった使い方は、ゼリー状の方が実施しやすいでしょう。
偽薬の利用
プラセボ製薬では認知症高齢者のくすりの飲み過ぎ、飲みたがりに介護者が適切に対応するための偽薬(プラセボ)販売しています。
薬を飲むことにに強くこだわる方なら、介護用偽薬「プラセプラス」を飲むのと一緒にお水を含んでもらうことができるかも?
果物など
上記の経口補水液はかなり味にまでこだわって作られていますが、苦手な方は少し気になるエグミが感じられてしまうかもしれません。ぜひ一度ご自身でお試しください。
そうした場合、水分をたっぷり含む果物などでの代用を考えてみても良いかもしれません。みかんやリンゴなど、身近に手に入るフルーツには水分がしっかりと含まれていますのでお好みに合わせてご検討下さい。
水分摂取の重要性
身近な方の認知症が悪化したのかな?と思われたら、声掛けの工夫やちょっとした小道具を用いて、いつもより多めの水を摂取できるようにしてみてください。
それだけで、ご本人の行動・ことば・表情が変わってくるかもしれません。
変化のありやなしや、じっくりと観察してみてください。
認知症の問題行動と捉えていた負担やストレスを軽減させるのが「水」という最も基礎的なライフラインであると知れば、重荷でしかなかった介護観はここから変わる気がします。
寒い時期には白湯がベター
いくら水分摂取が大事だからと言って、体温より低い水をガバガバと飲んでしまえば冷えからくる体調不良に悩まされてしまうことになるでしょう。
健康や美容に人一倍気を使っている芸能人の多くが夏場でもキンキンに冷えた飲み物を摂らないよう心掛けているように、冷えを避けることは健康へ近づくための必須事項となっています。
冬の寒い時期ならなおさら、白湯を提供しましょう。
また経口補水ゼリーをお湯で溶いたり、くず湯を使って甘く美味しく水分補給したりと工夫されている例もあるようです。水分を取ってくれない悩みの解消には、温度と味の管理に加えてテクスチャー(質感)にもこだわる必要があるのかもしれません。