ビールで薬を飲んではいけないの?水か酒か問題は未解決

酒は百薬の長

そんな言葉もある通り、適量のアルコール飲料はどんな良薬よりも良く効くともされています。

ある疑問

しかし、「ビールで薬を飲んでよいのか?」を真剣に考えてみた人はこれまでいなかったようです。

下記記事で紹介された摂南大学薬学部の山田さんが現れるまでは。

研究のきっかけ

『薬飲むには水で:根拠は…アルコールでは血中濃度低いまま – 毎日新聞』

「薬は水で飲むもの」という常識を無視し、平然とビールで風邪薬を飲み下す伯父に対し科学的な根拠を述べて「ビールで飲んではいけないのでは?」と説明することが出来なかったことをきっかけに研究をはじめたそうです。

面白い!

ちょっとした批判

ただ、始めから「薬は水で飲むべき」という結論ありきで研究が為されたのではないかと、記事を読んだだけですが、そう思われます。

研究に取り組む姿勢として、「ビールで薬を飲んではいけない理由を探ること」が目的とされているように感じるのです。だって、それが常識だから。だって、そうじゃないと伯父を説得なんてできないから。

しかし、科学研究のあるべき姿は、できる限り先入観を排して行われる研究だとプラセボ製薬では考えます。

「ビールではなく、水で薬を飲むべき理由」を探るのではなく、「薬を飲むなら、ビールと水どっちがよい?」と事前判断を排し客観的に問われるべきだと。

根拠としての「血中濃度」

ニュース記事によれば、水で飲むべき根拠として、マウス実験において、ビールや日本酒で薬物を飲ませた場合に30分後の血中薬物濃度が水で飲ませた時よりも低いことが挙げられています。

しかし、ヒトとマウスは違うのでまだ「ビールではなく、水で薬を飲むべき」とはまかり間違っても言えませんね、と。

またビールで飲んだ時の方が血管が広がり循環血液量が増えたから薬物濃度が低かったとか、血の巡りが良くなって素早く体内、細胞内に吸収され血中に遊離する薬物濃度が下がったとも考えられますよね、と。

30分の1点測定じゃ、先入観すなわち「ビールで飲むのはいけないこと」という前提知識が無ければ、薬を水で飲むべき根拠とはなり得ません。

不適切なアウトカム

そもそも服薬の価値が、「どれだけ血中薬物濃度を上げられたか」で測れるとは思えませんし、さらに言えば風邪薬を飲むべきか否かも科学的には断言できません。

ビールで飲み続けた時、水で飲み続けた時、それぞれで「対症療法で楽だと感じられたか」や「薬が不要となるまでの期間」を比較するなど、より意味のある価値尺度すなわち臨床的恩恵を考慮した研究を行わなければならないでしょう。

血中薬物濃度を維持することを最終目標に薬を飲む人なんていませんよね?

なんらかの治癒効果を得るために飲むのですよね?

だったら、血中薬物濃度の維持が臨床的利益の指標とはなりえないですよね?

そうした研究が倫理的に可能かはさておき。

臨床試験でも、問題は同じ

どうしてそうつっかかるのか、わからないかもしれません。

だって、「酒で薬を飲んじゃいけない」でしょ?当たり前じゃん?

常識と科学的正しさ

しかし、それが当たり前でも常識だから正しいわけでもありません。

科学的な正しさは、常識では測れないのです。そうした常識的判断から逃れる科学的方法の一つが「プラセボ対照試験」と呼ばれます。

意思によって、あるいは医師によって先入観を取り除くことは出来ません。したがって、先入観があることを前提とした試験デザインが医薬品の臨床試験では採用されます。それが、プラセボ対照試験。

判断基準の難しさ

しかしプラセボ(偽薬)を用いたところで、何を判断基準として効果とするかは非常に難しいため、ビール服薬実験での血中濃度と同じように、それっぽい測定可能な基準が置かれます。

しかしそれは、薬の価値として本質的ではないところに置かれることがほとんど。治癒が目的でなく、対症療法的な検査数値の改善(これもまた勝手な価値基準に基づく場合がある)が目的となっています。

患者には薬を飲み続けてもらわねば困るし、長い間飲み続けられる、したがって治ってしまうことの無い薬が良い薬というわけです。

ビール服薬実験は、そうした思想と根っこで繋がっているように思われましたのでついつい突っかかってしまいましたが(すみません)、ご理解いただけますでしょうか。

プラセボ製薬では、インスリンや甲状腺ホルモン、性ホルモンなど各種補充療法を除き、特に軽度の疾病や生活習慣病に関わる薬を生涯に渡り飲み続けなくてよい生活を提案したいと考えています。

薬はビールで飲むべき?

研究の結果、ビールで飲んだ方が治癒にかかる日数が短いことが明らかになるなど、ビールで薬を飲むべきと結論される日が来るかもしれません。

未来のことは誰にもわからない、はず。

ビールで薬を飲みたい人には、自己責任で飲んでもらえれば他人がとやかく言う問題ではないのではないでしょうか。

科学者を志すなら、自分が常識と思い込んでいることを他人に押し付ける事は控えましょうってことで、ここは一つ。

ビールと薬にまつわる面白い話

ビール繋がりで、面白い話がありましたのでご紹介。

『抗菌薬服用後に腸内でビールを作り続けた男!?愛すべきおバカ論文:日経メディカル』

上記記事では、病原菌と腸内常在菌を殺す薬である抗菌薬を服用中、腸内の細菌叢が乱れた状態でビールを飲み、ビール中にいた酵母が定着してしまったためにアルコールの腸内自家発行に成功(?)した症例が紹介されています。

その名も、ビール自動醸造症候群(Auto-Brewery Syndrome)

食べ物として炭水化物を摂り入れると、腸内に住み着いた酵母の働きでアルコールを産生する身体になったそうです。ごはんやパンを食べただけで酔っ払い…。

抗生物質の薬はビールで飲むなよ!絶対飲むなよ!!(ネタじゃなく)

制酸剤、胃腸薬も危ないかも

抗菌剤と同様の理由で、胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーなどの胃腸薬や、胃酸と中和する制酸剤などもビールとの併飲は危ないかもしれません。

酸(低pH)によって胃内で殺されるはずの酵母・細菌が死なず腸へ移行する可能性があるため、自家酩酊症に陥る…かもしれません。

その生ビール、本ナマですか?

生ビールと称されるビールは熱処理されていないため、生きたままの酵母が含まれています。

しかし、よくある澄んだ色の生ビールは珪藻土&フィルター処理がなされているため、酵母が取り除かれています。抗生物質を服薬中にこれを飲んでも、「ビール自動醸造症候群」については大丈夫なはず。

ただし、注意すべきは濁った生ビールです。敢えてビール酵母を取り除かない製法を採用している製品は、濁ったビジュアルを売りにしているのですぐわかります。

こうした生ビールで医薬品を服用することは避けましょう。