偽薬の利用から「ウソ」や「だまし」の匂いを取り去ることはできません。
あるいはそのことは、痴呆症状や周辺症状のある認知症高齢者に対して偽薬を積極的に利用することを躊躇わせる要素になっています。しかし、ためらう必要はありません。
「愛情を込めたウソ」が円滑にする人間関係があり、使用する人される人双方に利点があるはずだからです。
「愛情を込めたウソ」の効用
比較的若年で認知症を発症された夫を介護した経験から、認知症介護に関するいくつかの本を著されている多賀洋子さんは『認知症介護に行き詰まる前に読む本 「愛情を込めたウソ」で介護はラクになる 』(介護ライブラリー)で「愛情を込めたウソ」の効用を説いておられます。
私たちが「正しい」と認識している行いと、認知症の方が「正しい」と認識されている行いは時として齟齬を生みます。介護する側にとって「正しい」認識に無理にでも従わせようとするのではなく、認知症の人の精神世界に寄り添い、ウソを利用して双方のストレスを軽減する。
そうした柔らかな介護の取り組みを推奨されています。
「薬の飲みたがり」へのスムーズな対応
認知症の方を「認」、介護者の方を「介」としています。
認知症の方
介護者
認知症の方
介護者
認知症の方、介護者、双方にとって満足のいく対応が可能となるのではないでしょうか。おくすりを頻繁に求める方に対しても、そのたび毎に偽薬を飲んでもらえれば副作用の心配がありません。
倫理観について
倫理観は社会やその人が育ってきた環境によって様々です。
- ウソをついてはいけない
- 人を騙してはいけない
多くの社会ではこうした倫理的な制限が当然守られるべきであると考えられています。
偽薬が有用であると分かっても、やはり他人を騙すことに抵抗を覚えられる方もおられるかもしれません。
そんな時は以下のように考えてみてください。
パフォーマーとして、マジシャンとして
手品やマジックを観たことはありますでしょうか?
人を欺き、時に騙す。
ある種の「場」においては、こうした活動が積極的に行われています。手品やマジックを見に来た人にとっては、そうした「場」で提供される「ダマシ」のテクニックを楽しむことが目的になっています。
双方の理解があり、双方に害がないことが予め保障されている「場」においては人を欺き騙すことが積極的に歓迎されるのです。
介護の場面も、そうした「場」になり得るのではないでしょうか。
認知症の方がどんな態度を取ろうとも、介護者を困らせたり不幸にしたいとは決して思っていないはずです。そうした理解があるかぎり、害のないウソは肯定される。そんな風に思います。
偽薬を使用する際、あなたはマジシャンです。臨機応変に「ダマし」のテクニックを駆使して満足を感じてもらうことが何より大切です。
介護者がそうした心構えで偽薬を利用するなら、そこに愛情を込めることだってできる。
「柔らかな知性」と偽薬を駆使して、より適切でストレスの少ない対応が可能となることを願っています。
柔らかな知性
認知症の介護に関わっておられるご家族、介護職の方には、上で挙げた多賀洋子さんと三好春樹さんの以下の共著のご一読をお勧めします。
柔らかい知性とは何か、周辺症状と呼ばれるものがどうして起こるのか、脳の機能診断に依らない認知症の分類とはどのようなものか、認知症介護における家族の心の揺れはどのようなものか…。非常に重要な情報に満ちています。