高いほど効く?パーキンソン病における薬剤費のプラセボ効果

医師

こっちのクスリだと注射1回1万円です。ただクスリがもう1種類ありましてね、こちらは1回15万円になります。どちらにされますか?ご自由にお選びください…
ちょっと待ってくれ!私が知りたいのは、「どちらの薬が効くのか?」だ。「どちらが高いか(安いか)?」じゃない。

患者

患者の言い分に一理ありそう。

しかし、2015年1月28日にオハイオ州シンシナティー大学の研究者が発表した研究報告において「クスリは高い方が効く」可能性を示しました。

同じクスリでも高いほうが効果を実感しやすい。たとえ、そのクスリが薬効成分を含まないプラセボ(偽薬、プラセボ)だとしても…。

Neurology | Published online January 28, 2015, doi: 10.1212/WNL.0000000000001282
Alberto J. Espay, MD, et al.
『Placebo effect of medication cost in Parkinson disease(パーキンソン病における薬剤費のプラセボ効果)』

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パーキンソン病とは?

パーキンソン病は脳内のドパミン神経細胞が減少してドパミンが不足することにより、手足のふるえや緩慢な動作、あるいは精神症状を呈する原因不明の病気です。

進行性であり徐々に身体機能が低下してゆきますが、現在のところ根治療法はなく、「レボドパ」と呼ばれる薬剤で病状に沿ったドパミン補充療法が為されています。

また、パーキンソン病患者にはプラセボ効果が現れやすいという特徴があるようです。

プラセボがドパミンの作用を介して効果を発現するため、元々脳内ドパミン量の少ないパーキンソン病患者に対して影響が大きいのだと解釈されることもありますが、未だはっきりとしたことは分かっていません。

研究の概要

方法

今回報告された研究では、12名のパーキンソン病患者に対してどちらも同様に効果のある安価なもの($100)と高価なもの($1,500)、2種類の「皮下注射できる新規のドパミン作動薬」がランダム化された条件で交互に、盲検法により与えられました。

この2種類の「皮下注射できる新規のドパミン作動薬」が、実はどちらも薬物を含まない生理食塩水、すなわちプラセボ(偽薬)です。

プラセボしか使用されない点について、被験者には知らされません。

結果

これらを被験者に投与し運動機能テストにより効果を検証したところ、安いプラセボと高いプラセボいずれも運動機能が向上しましたが、高いプラセボが先に投与された場合に限り、高い方が有意に運動機能を向上させました。

効果は「レボドパ」より低いが、それに近いもの。

一方、fMRIを利用した脳機能測定においては安いプラセボが投与された場合の方がより活発な脳の活動を示していました。

研究者らはこの結果を、安いがゆえに効きの悪いと思われる薬の場合には、薬に頼らず自身が頑張らねばとより活動に励んだためと解釈しています。

考察

どうやら「価格」という外的な情報、クスリの本質とはほとんど関係がない単なる数値を知らされることによって、プラセボ反応の大きさは変わってしまうようです。

なお、2種類の「皮下注射できる新規のドパミン作動薬」を試験するに当たり被験者12人中8人が「高い方が良く効くだろう」と考えていた(期待していた)と答えており、これらの人の方が「そうは思わない」人より運動機能改善効果は高かったとのこと。

治療に対する被験者の認識もまた、プラセボ反応の大きさを変えるようです。

更なる研究により、現在使用されている医薬品の使用量を控え、重大な副作用を最小限に抑えるような治療戦略を見出すことが期待されています。

これまでの研究から

デューク大学(アメリカ)のダン・アリエリー博士は2008年にイグノーベル賞を受賞しました。受賞理由は「高価な偽薬(プラセボ)は安価な偽薬よりも効力が高いことを示したこと」に対して。

この時は「痛み」について、それを抑える薬の価格が健康な人の痛み感覚に影響するかどうかが検討されました。

結果は、「高いほど良く効く」。

今回の研究が新しいのは、実際のパーキンソン病患者を対象としたことです。

実際に運動機能障害や神経症状を呈する患者に対して、より客観的な指標と言える「運動機能」が薬の価格によって変わること、やはり「高いほど良く効く」ことを示しました。

著者のコメント

筆頭著者のAlberto Espay博士は言います。

  • 医師はプラセボ効果にてこの力を作用させて患者を救えるようになるかもしれない、処方箋を書くことなく。
  • プラセボの潜在的に大きな利益は、価格を操作するにせよしないにせよ、他の神経学的・内科的疾患と同様にパーキンソン病患者のために利用されることが期待されている。
  • 私は今回認められた現象を、慣れ親しんだ普段の治療より高価なものはやはり高品質で良く効くだろうと患者らが認識した結果だと考えます。
  • 我々の発見は、最近同様の試験デザインで確かめられたジェネリック医薬品より名の知れたブランドの医薬品が良い、という広く知られた患者の好みを補完しています。
  • パーキンソン病患者が見せたプラセボに対する反応は、一切の医療的介入の結果ではなく、彼ら自身の経験に対する期待から引き起こされたもの、彼ら自身の内にそもそもあったものなのです。そのことを考えると、とても感動的です。

識者の批判・コメント

倫理的な問題

  • 著者らは医師への信頼や更なる臨床研究への参加意欲にどのような影響(悪影響)があり得るのかについて全く言及していません。(Peter A. LeWitt, Scott Kim)
  • 実際の診療現場でこの結果を直接応用することができるとは思いません。高価であると伝えることは、だますことです。このようなことは医療を実践するうえでは認められません。(Ted J. Kaptchuk)

統計の扱いに関する問題

  • たった12人の被験者を対象とした統計解析結果に基づく結論には同意できない。(John Kelley)
  • 通常、たった12人を対象とした研究がトップ・ジャーナルに掲載されることはありません。しかし、10年以上前の先行研究もまたパーキンソン病に関するプラセボ効果を示していたことから、本研究もより大きな信頼性を持っていると判断された、と専門家は語っています。(The Japan Times)

本研究が切り開く新たな地平

  • プラセボ効果研究を新たな次元に導く。(Peter A. LeWitt, Scott Kim)
  • 本研究成果は、その限界に関わらず、臨床診療、研究計画、そして健康政策と密接に関連するプラセボ効果の新たな別のニュアンスについて我々の目を見開かせてくれます。(Peter A. LeWitt)

参考記事

当記事の執筆にあたり、以下のWeb記事を参考とさせていただきました。より詳細な情報は、上記論文および以下の記事をご参照ください。