「あはき」って何だかわかりますか?
「あはき師」とか、「あはき療養費」とか、部外者にとっては耳慣れぬ響きの「あはき」。
この「あはき」については、今まさに喧々諤々の議論がなされています。
「あはき」とは?
もったいぶらずに言ってしまえば、「あはき」は「あんま、はり、きゅう」の頭文字をとったもの。
- 按摩(あんま)
- 鍼(はり)
- 灸(きゅう)
それぞれが伝統的な東洋医療の体系です。
より正確に言えば、「あん摩マッサージ指圧師」が行うマッサージや指圧などもこの括りに加わるようですが、これらを総称して「あはき」と呼んでいます。
「あん摩マッサージ指圧師」、「はり師」、「きゆう師」はいずれも国家資格です。
公的な議論の場
「あん摩マッサージ指圧師」、「はり師」、「きゆう師」はいずれも国家資格であることから、その行為は公的な健康保険の適用となります。
また法律によって業として行える行為が規制されているため、何がしかの制度変更を要する場合には国会での審議と法改正が必須となっています。
ただし、国会での審議に先立って所管官庁である厚生労働省が専門家委員会を立ち上げ、議論を深めながら法律の改正案まで練り上げるのが通常の流れ。医療関係の国家資格について専門的な議論ができる国会議員は極々限られるためです。
こうした流れは柔道整復師の場合と似通っています。
直近では、以下のような会議が催され議事録が公開されました。
2016年7月7日 第6回社会保障審議会医療保険部会 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会議事録
立場を異にする利害関係者が集まれば、当然議論は紛糾します。
落ち着く先は、未だ見えてきません。
鍼治療とプラセボ効果
実は鍼治療の効果に関しては非常に興味を持って調べられており、海外の研究では下記の結果が出ています(参照:鍼 – Wikipedia)。
現在のエビデンスは鍼治療の効果が全てプラセボによるものである可能性を排除していない。
Wikipedia「鍼」
もちろんこれを否定的に、批判的に捉えることもできるでしょうし、逆に「効果がないことはない」ことの証左として肯定的に受け止めることもできるでしょう。
プラセボ効果に関してここでは深追いしません。
議論の的、顧客の紹介
議題の中でいくつか気になった点をピックアップ。色々問題がある、いやあり過ぎる程にあるようですので、いくつかに絞って。
受領委任制度
上記の柔道整復師に関する議事において話題となっていた「受領委任制度(≒一部負担金制度)」に関しては、すでに導入済みである柔道整復に対し、あんまマッサージ指圧、はり、きゅうでは未だ認められておらず、施術者側からはその導入に対する切実さが伝わってきます。
ただ、柔道整復においてこの制度を利用した不正な保険金の詐取が発覚したことから、保険者側は導入に否定的な意見を述べています。
広告、患者誘引、リベート
ちょっと面白いなと思ったのは、障害者(介護も?)施設にいる高齢者を施術者へ紹介し、その見返りにリベートを受け取る例があるというお話。
確かに、こうした施設は特定の属性(年齢や障害など)を有する入所者に関して多くの情報を握っている為、それを活かして利益をあげることを考えるのは当然と言えるでしょう。
資料あ-2の15ページ、16ページに記載がありますが、保険医療機関は患者から「自由に選ばれる」立場であり、その前提を崩す事業者間のやり取りは規制されてしかるべきだとされています。
会議に参加する医師の発言にありましたが、介護支援を専門とするケアマネージャーから「いい施療者」としてあんまマッサージ指圧師、はり・きゅう師が紹介される例もあるようです。
(職業倫理はさておき)ケアマネさんからすれば、「紹介をすれば何らかの見返りがある」というのは一つの選択基準ともなり得ます。逆に、「見返り」という判断基準がなければ、何を持って施療者を勧めるべきでしょうか?
地域内の多くの施療院を回って実際に施術を受け、身を持って評価した上で紹介につなげる?
恐らく、そんなことはできっこない。
患者が通いやすい、あるいは現在は距離によって金額の決まる「往療料」が小さくなる“もっとも近い”施療者をすすめる?
それだとわざわざケアマネが紹介する意味もないでしょうし、「いい施療者」を紹介できているかどうかは疑問の残るところでしょう。
医療と介護が連携を深める地域包括ケアシステムにおいて、その一部を担うと目されるこうした施療者が目を引く広告も出さず、金品を介した患者の紹介を受けず、良識ある医療人としての価値を提供し続けるために何をすべきか。何ができるか。
リラクゼーションを謳う無資格のマッサージが派手に広告を打ち出す中で、「国家資格」を有するがゆえに規制の網に絡み取られることに最大限の危機感を抱く理由がここにありそうです。
医療・介護はどこへ向かうか
実のところ、現在の医療制度や介護保険制度は全くもって維持の不可能な制度になっています。2018年度には介護保険制度が改変され「負担増」となることはほぼ確実です。
それでもまだ、どうすれば将来にわたり維持可能な制度にできるかは誰にもわかりません。
現在では西洋医療的な思想に押されがちな、東洋医療の流れを汲む施術が維持可能な制度の中心的な存在となる可能性もある…のかもしれません。
「薬に過度に頼らない」、「人間の持つ自然治癒力に着目した」東洋医療の体系は科学的なエビデンス至上主義といくぶん相性が悪いようですが、プラセボ効果に興味を持つものとしては紹介した議論の行く末など気になるもので。
未来に不安を覚える医療関係者、介護関係者さんにおかれましても、こうした議論をサラリと追っておくことは意味ある、価値あることではないでしょうか。