セルフメディケーション税制は面倒?減税額とレシート保存&確定申告の手間は要勘案

平成29(2017)年1月より、「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」と呼ばれる新たな税の仕組みが適用されます。

簡単に言えば、薬局やドラッグストアで購入できる特定のOTC医薬品(一般用医薬品)については、年間の購入金額に応じて納税すべき金額を減らしてもらえるという制度です。

ただし、今のところ「平成29年1月1日から平成33年12月31日」の期間に限られます。

どれだけ減税される?

実際、今般のセルフメディケーション税制開始によってどれほどの金額がおトクになるのでしょうか?

本記事では、一般消費者にとって納税額が減ることをおトクと表現します。

シミュレーターで計算してみましょう。

最大でおいくら万円?

日本一般用医薬品連合会のセルフメディケーション税制紹介サイトでは、年間所得金額とOTC医薬品の購入金額を入力すれば、どれほど節約になるかを示してくれるシミュレーターが用意されています。

所得税率が高い(≒年収が高い)ほど、またOTC医薬品の購入金額が10万円(制度上の上限)に近いほど、節税額は大きくなります。

したがって、所得税率が最高の45%となる4,000万円以上の所得があり、OTC医薬品を年間で10万円購入した場合、総額で48,400円の減税が上限となります。

購入金額に対する減税額の割合は48.4%であり、これならセルフメディケーション税制の活用し甲斐がありそうですね!

実際のところは?

ただし、より一般的な設定の場合には購入金額に対する減税額の割合が下がります。

減税率の大勢は所得税率により決まってくるため、例えば所得400万円の人が5万円分のOTC医薬品を買っていたとすると、減税額は11,400円となり、割合は22.8%。

年間5万円と言えば、月額4,167円分のOTC医薬品を薬局やドラッグストアの店頭で購入している計算となり、かなりのヘビーユーザー層と言えるのではないでしょうか。

購入金額が下がれば下がるほど減らしてもらえる税額も下がり、年間12,000円(月平均1,000円)を下回ればセルフメディケーション税制を利用することができなくなります。

控除とは?

ちなみに、セルフメディケーション税制の実体は「医療費控除(の特例)」ということになっています。

「控除」とは平たく言えば「さっぴいてのぞいちゃう」ことで、この場合には課税の対象となる所得金額を計算する際に、「医療費としてOTC医薬品購入金額の一部を所得金額から差っ引いちゃって良いですよ、特例として認めますよ」という制度だということです。

こうして控除すれば課税対象となる所得の金額が減ることとなり、結果的に納付すべき所得税額も(上でみたように)減るという訳です。

よくある(?)間違い

セルフメディケーション税制に関して起こりそうな勘違いとして、

「対象のOTC医薬品を購入するときに、(消費税分などが減り)値引されてお得になるのかと思ったのにそうじゃなかった」

なんてことが考えられるでしょうか。

セルフメディケーション税制は店頭値引き制度ではありませんし、消費税額も変わりません。年間の所得金額に応じて課される所得税と個人住民税が減税対象となります。

ちなみに、購入金額の計算には消費税額込みの金額を使うとされています。(参考:厚生労働省「セルフメディケーション税制に関する Q&A 平成28年12月7日現在」)

健康維持管理費を経費算入

勘違いせずセルフメディケーション税制を理解するために、簡易的な所得の算出方法を知っておきましょう。

(所得)=(収入)ー(※経費※)

経費は収入を得るためにかけた費用のことであり、これを収入から差し引いた金額が所得になります。

セルフメディケーション税制では、特定のOTC医薬品の購入金額の一部を、この経費として算入しても良いですよという制度設計になっています。

つまり、お給料などの収入を得るためにかけた健康維持管理費用としてOTC医薬品の購入費用を認めましょうと。そういうお話のようです。

従来の医療費控除とは併用不可

従来からある医療費控除制度(自己負担額10万円以上の場合など)でも、医療費分を所得金額から控除できました。

しかし、当記事で紹介している「セルフメディケーション税制」と「従来の医療費控除」とは併用ができません。

従来の医療費控除の場合、医療費が高額であればそれだけ控除金額も大きく、また上限が200万円であるため、場合によっては支払い過ぎた税金が還付されることもありました。

選択肢は4つ

従来の医療費控除制度とは併用不可であるために、選択肢が4つあります。

控除するのかしないのか。するとすれば、2つあるうちのどちらが適用可能で、実際にどちらを適用するのか。

適用範囲を参照し、実際に計算し、適用の可否を検証する…医療費控除に関する税制度の複雑性は相乗的に増してしまいました。

セルフメディケーション税制は利用すべき?

さてそんなセルフメディケーション税制を利用するために、やるべきことがあります。

  • 納税
  • 領収書(レシート)の保存
  • 健康診断等の受診
  • 確定申告

面倒ですか?

面倒ですよね…。

先に書いておきますが「面倒だ」、「割に合わない」と思った時点で、この制度を無視してしまうことができます。制度の学習コストや減税のためにかかるコストもバカにはなりません。

無視したところで、1円~48,400円の減税措置を受けられなくなるというだけのお話です。

それでもやはりセルフメディケーション税制の適用を考えたいという方のみ、先へお進みください。

※以下の記載は大枠を捉えるために詳細を端折っています。予めご了承ください。

納税

これまで書いてきたとおり「所得からのOTC医薬品購入費控除」がすなわち「減税」となりますので、所得にかかる所得税や個人住民税を納めていなければ(納めるのでなければ)、セルフメディケーション税制から何らの恩恵も受けることはできません。

領収書の保存

現状において年額でどれほどOTC医薬品を利用しているか把握し、「今年は(も)12,000円以上だろう」と想定できなければレシートを保存する人は少数なのではないでしょうか。

おおまかな基準は、月に1,000円ほどOTC医薬品を購入しているか否か。

もちろん、例えば風邪をひく時期や回数を調節することはできないので、年末に数千円まとめてOTC医薬品を購入することもあるかと思いますが。

「念の為にレシートをとっておく」という仕事は結構面倒な気がしてなりませんが、証憑として提示できなければセルフメディケーション税制の恩恵を受けることはできません。

健康診断等の受診

またOTC医薬品を相当額購入しているという事実だけでは、適切な健康維持管理費用をかけていることにはならないようで。

例えば家族分だけでなく、知人友人の分までOTC医薬品を代理購入したり、あるいはヤミ転売している人がいないとも限りません。制度上は、それが簡単に出来るしくみになっています。

多額のOTC医薬品購入レシートを手にすれば、脱税行為も可能になってしまいます。それこそ、全然割には合いませんんが。

セルフメディケーション税制を活用したくば、世帯主が健康診断等を受けるなど「一定の取り組み」への参加実績を証明せよ、とのこと。

確定申告

さらに難関は確定申告ではないでしょうか。

多くの会社勤めのサラリーマンやサラリーマンを定年で退職した方の場合、確定申告という税務イベントにエンカウント(遭遇)せずに過してきた方も多いのではないかと思います。

というのもサラリーマンは納税関連業務を会社に委託し、自らの専門性をより鮮明に発揮することを期待された存在であり、国家制度的に税務イベント回避措置が取られてきたためです。源泉徴収や年末調整というのも、その一環です。

しかし、国家と国民との関係において納税(徴税)は最重要の位置づけであるはずで、「より多くの人が能動的・主体的に税務に関わるべき」とも考えられています。

具体的に言えば、「もっと多くの人が税務行為として確定申告をすべきだ」と。

セルフメディケーション税制の適用要件として確定申告を課すのは、(勝手な推測ながら)こうした目的があるのかもしれません。多様な働き方や雇用の流動性と、確定申告のあいだには、深いつながりがありますので。

うがった見方をすれば、なぜだか税務署ではレシートの数字や書類の一々をチェックする「めんどうで画一的な仕事」が求められている…というのは邪推でしょう。忘れてください。

確定申告と言っても堅苦しいことはなく、毎年2月~3月頃に前年分の確定申告書を作成し、所管の税務署へ提出するという、それだけのことではあります。

それだけ、それだけ…。

補完情報

先に述べた通り、上の情報は端折られた部分が多いため、まったく不正確ではなくとも正しいと主張できるようなものではありません。

セルフメディケーションとセルフメディケーション税制の活用を推進されている官庁、団体のウェブサイト等を適宜ご参照ください。

セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について | 厚生労働省

わざわざWHOの定義として「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」を挙げながら、セルフメディケーションを「自主服薬」と狭い意味に再定義するのは、当制度の推進を狙ってのことでしょうがどうにも…ぶつぶつ。

知ってトクする セルフメディケーション税制 | 日本一般用医薬品連合会

先に挙げた減税額シミュレーションの他、非常に分かりやすい解説が掲載されています。業界団体が規定した税制適合マークが対象商品に付されるそうですので、2017年以降の商品購入時にはご注目。

利用の判断はご自身で

セルフメディケーション税制の適用には手間もかかりますが、対象となるようであれば利用を検討されてみてはいかがでしょうか。今後、より深くコミットするきっかけにはなるかと思います。

減税額と手続のコストという基準で判断すれば、是非活用しようという気にはならないかもしれません。

ただ、特に会社員など給与所得者の方にとっては税務行政と関わるきっかけにはしやすいかと。

逆に「利用しない」という消極的行為によって、多大な面倒を強いる行政の意識改善を促す…などの選択も可能でしょう。

ご自身の判断でセルフメディケーション税制利活用の可否をご検討下さい。