医療経済の問題はローテクな偽薬で対策

最近こんな本を読みました。

『シリーズ生命倫理学 第17巻 医療制度・医療政策・医療経済』(今中雄一・大日康史 編、丸善出版)です。

医療経済と少子化

特に医療経済に関心があって読み始めたのですが、その他の大きな問題と同様、現代日本の抱える医療経済学的問題の核心が少子高齢化にあることはみんなわかっていて、じゃあ専門家と呼ばれる人たちはどのような解決策を提示できるのかな?というのがそもそもの興味としてありました。

不明瞭な対策

しかし、しかし。やはり、と言うべきか。

  • いやいや、そもそも医療費が少子高齢化の進展によって増大しているのは事実としても、より大きな要因は「医療の高度化」にあるのですよ
  • 医療情報の集積とネットワーク化が効率の良い医療サービスの提供に資することは間違いない
  • 健康保険者の広域化が必要だ

などなど、現状分析的な記載に留まっているという印象は拭えません。

そもそも、少子高齢化が医療経済にどのような影響を与えるのでしょうか?

少子高齢化と医療経済

まず「医療経済」と言う言葉自体が一般的ではありませんので、これを「健康保険財政」と読み替えてみましょう。その上で、個別事例はさておき、現状をごく単純化してみると、

  • 健康保険料を払う人 → 現役および将来世代
  • 健康保険を使って医療サービスを受ける人 → 高齢世代

となります。これは年金と同じ構造です。

少子高齢化社会とは、全人口に対する高齢者の割合が大きくなる社会ですので、現役世代の健康保険料負担はどんどん増えていくことになります。

また、健康保険料で賄いきれない保険給付は日本国によって補填され、日本国は国債発行により資金調達していることを考えれば、将来的には(将来の)国民が税金として負担していることにもなります。

つまり、まだ生まれてもいない将来世代が、現在の医療サービスを支えているという、ちょっと笑えない話になっているみたい。

あなたが求める健康は、将来世代へ負担を押し付けてでも得なければならないものですか?

『我々の健康と長寿を願い、将来世代のみんなは喜んで保険料を負担してくれる』と思われますか?

と医療サービスを受けようとする人に尋ねなければならない世界が、もう、すぐ目の前に迫っています。

でも、誰もそんなこと尋ねたくはないでしょうし、答えたくもない。たぶん。

医療費の削減を目指すアイデア

健康保険財政の問題は、この国に存在する財政問題の一分野に過ぎません。しかし、この特殊な分野では、年金財政などとは異なり、積極的解決策を講じることができるだろうと思います。

解決に向けた取り組み

その骨子は以下の2点です。

  • 先進医療に過度の期待を抱くのはやめよう
  • 高齢者の健康に対する不安を抑え、自信を持てる社会にしよう

そしてそのことは、プラセボ(偽薬)の積極的な使用によって達成可能ではないかと考えています。

ローテクな対策

プラセボ飲んだら良くなっちゃた、という事象をプラセボ効果と言いますが、このプラセボ効果を医療現場から解放し、家庭レベルで実践的に応用すること。

それが、医療費削減の第一歩となりやしないかと思います。

高度・先進(ハイテク)に対して、有効成分を含まないプラセボを用いた「ローテク」な方法で問題に切りかかる新たな戦略を提示したい。

できることからやってみようと思います。

世代間格差増幅装置

日本には様々なかたちで、至る所に世代間格差増幅装置が埋め込まれ、今はたぶんセカンドからサード・ギアに切り替わったくらいで日々是順調に運転しています。

非永久機関

そしてこの装置の最も面白い特徴は、「この装置自体が生み出す世代間格差そのものを燃料としている」ということです。

ただし、永久機関としてではありません。自分自身を焼き尽くしながら、短い生命を華々しく全うするため…。

いつまでたっても消えず、何処からともなく、ずっと下の方から立ち上がってくる煙に怯えて暮らすより、今の今、燃料の投下を止めるべきだと僕自身は思います。

参考にすべき良書

上で紹介した本は、一般的に言って「読むべきでない本」です。残念ながら。

では、「読むべき本」とは何だろう?

その答えとして、『医療政策を問いなおす―国民皆保険の将来』をお勧めします。医療制度・医療政策・医療経済を学びたいとお考えの全ての方におすすめ。