アルツハイマー型認知症についてはここ十数年、アミロイド仮説やタウ仮説などの変異型タンパク質の蓄積を病因とする仮説が支配的でした。
アミロイドβやタウといったたんぱく質が脳細胞に蓄積されることで正常な働きが阻害され、死滅してしまうのだと考えられてきました。
支配的な仮説は、いつだって前提に化けてしまいます。
正しいか正しくないかはさておき原因を決め打ちで決めてしまい、特定の原因に対する解消策を練る(=薬を創り出す)。
ただ、もし仮定が誤っていたとすれば仮定が正しいことを前提とする論理は全て破綻してしまうので、一度原因だと思い込んだらそれに固執する傾向があります。
アルツハイマー病研究は、ここ数十年を誤った仮説を前提とする研究姿勢によって遅れが生じてきたのかもしれません。
ブレイクスルー
しかし近年、あらたなアルツハイマー病因仮説として免疫システムのかかわりが指摘されるようになりました。
アルツハイマー病の進行には脳の炎症が関わっている、というのです。
最近はやりの医学キーワード「慢性炎症」。脳もまた、慢性的な炎症によってダメージを受けてしまう可能性があるようです。
炎症の原因は免疫?
炎症が悪さをすることがあるとして、どうして炎症は起こってしまうのでしょうか?
その仕組み・メカニズムには我々の身体に備わる免疫作用が関わっています。
免疫とは、自己と非自己を見分け排除する仕組みのこと。この雑多な世界で生きていく上で不可欠なシステムですが、「自己免疫疾患」などと言われることもあるように時として自己に対する攻撃を行ってしまう場合があるようです。
上記記事では、こんな風に解説されています。
免疫システムの過度な活動が慢性的な炎症につながる可能性については、これまでの研究でも既に報告されている。
今回の新しい発見で、炎症がアルツハイマー病の結果に起こるものではなく、アルツハイマー病の原因だということが明白になった。
ハフィントンポスト「アルツハイマー病の進行を止める化学物質が発見される?」
「免疫システムの過度な活動」。他者・侵入者を排除しようとするその働きが自己へと刃を向けるような過度な活動によって自分自身さえ傷つけてしまうようです。
免疫細胞を抑える
上記記事では「アルツハイマー病患者の脳ではミクログリアと呼ばれる免疫細胞が増えていたこと」、そしてまだまだ実験用マウスの段階の話ではありますが「ミクログリアを抑制する薬物が認知症状を軽減した」ことが描かれています。
これはアルツハイマー型認知症の治療薬開発に道筋を付ける大きな成果だ、と。
でも、本当に?
医学・生物学研究の目的
医学・生物学を研究する研究者の多くは、ただ単に「面白い」とか「興味深い」、「生命の神秘に迫りたい」などのモチベーションで実験に励んでいたりするのですが、得てして活動資金を得るために「新規医薬品開発につながる」という目的をでっちあげる必要に迫られます。
もちろん医薬品の開発が悩める患者を救い、ひいては社会貢献につながるのだと考えている方も少なからずおられるでしょうが、研究成果を発表する際に夢見がちなことを、具体的には新薬に繋がる可能性が拓けたことをおおっぴらに言わなければならない事情があります。
したがって、この辺は差し引いてみておいた方が良いでしょう。
なぜ炎症は起こるのか?
さらに言えば、生命と言う複雑系のシステムが生命そのものの維持を目的としているならば、自己を攻撃するその理由を探った方が良いのではないかと思われます。
どうして、脳内で炎症を起こす必要があったのか?
なぜ、脳内で免疫システムを活性化させなければならなかったのか?
こうした本質に迫る深い疑問に答えようとする営為こそが医学・生物学研究の目的であり、取り敢えず目の前の現象を抑えましょうという対症療法的な発想は、やがて失望を生むのではないかと。
生活に重点を置こう
また、困ったことがあれば薬に頼るという安直な方法があまり奏功しない・効かない例はたくさんあって枚挙に暇がありません。
逆に「生活習慣病」なんて言葉があるように、生活を変えれば、驚くほど病気の現れ方自体が変わってくるという考え方が浸透しつつあります。
(薬)血糖値が高い → 糖尿病治療薬を飲みましょう
これは古い考え方。
(生活)血糖値が高い → 糖分・炭水化物の摂取を控えましょう
こちらが比較的新しい考え方。認知症についても同じこと。
(薬)MCI(軽度認知障害)の疑い → 抗認知症薬で早期治療
(生活)MCIの疑い → 食事内容を見直し、積極的に歩く
糖尿病も認知症も、薬に頼ることなく生活習慣の見直しによって軽減・改善する可能性が示唆されています。
人体と言う比較的頑強なシステム(100年以上維持されることがあるなんて!)の、その頑健性を信じてみることには大いに意義があるように思われます。