薬を飲み過ぎて「薬漬け」になる日本人、薬を使わず「不安商法」で応戦する薬剤師

出来るだけ薬を使わずに生きること。身体に備わる「免疫力」や「自然治癒力」を信頼してみること。

そんな健康観が広がりつつあります。

薬を使わない薬剤師

「薬を使わない薬剤師」でおなじみの宇多川久美子さんの著書『日本人はなぜ、「薬」を飲み過ぎるのか?』を読みました。

ちなみに、よく売れている先行書『薬剤師は薬を飲まない』はこちら。

アマゾンレビューって基本的にはすごく参考になりますが、前者にカスタマーレビューが付いていないので後者を参考にしてみる。

ふむふむ。参考になる点は多し。なお、続刊『それでも薬剤師は薬を飲まない』には酷評も。なーるほど。恐らく(読んでいないので恐らくの話ですが)、『日本人はなぜ、「薬」を飲み過ぎるのか?』は『薬剤師は薬を飲まない』にとっても近い内容なのではないかと思われます。『それでも―』じゃなく。

ヒートアップする否定本

医療・医薬品を否定する本を書こうとすると、主張を補完して補強して取り繕う必然性から偏った意見になりがち…というか著作を並べてみると主張と芸風の相互作用でそうなっちゃってるのかもしれません。

否定しない訳にはいかない、と。

医学や薬学については近年の人間臭い事例のおかげか不信感も高まっているように思われますので医薬否定本は一定の読者層獲得が期待できますが、逆にその人たちの期待に応え続けなければならないという困難に対して見出された一種の解決策が、「主張をヒートアップさせる」になるのかもしれません。

否定、その後に

また否定するだけがお仕事のどこぞの○党と違い、医薬品を否定したときには何らかの具体的で有効な(すくなくとも、有効だと思い込めるような)対案を出さなければなりません。

この点が難しくまた否定本著作者の腕の見せ所でもあるわけですが、信念や思い込みで突っ走っちゃう傾向があって本当に難しいですね。

健康について分かったふりをするのも簡単じゃありません。ただ、「うーん、難しい」というよりは「これだ!」と明確なアイデアを提示してもらった方が気分は晴れるかもしれない、と思ったり。

人間が最も苦手なこと(の一つ)が「何もしない」であることの困難は、服薬・医薬品投与についてもあてはまるかと。

薬を使わないことを考えた方が良い

ただ、それでも、薬を使わずに過ごすことを医療の目的に据えた方がいいよなぁとは思いますので、そちらについていくつかピックアップしてみましょう。

風邪薬・総合感冒薬

風邪の諸症状に効くとされるかぜぐすり。これが風邪を治すものではなく、症状を抑えるだけの対症療法薬であることは一般に広く知られるようになってきました。また風邪での受診時に抗生物質のおくすりを出されることが未だにありますが、ウイルス性の風邪に抗菌剤は意味がないことは広く知られていいるはず。

小中学生が(将来的に)薬に頼っちゃうことを防ぐために、風邪は薬を飲まずに治ることを体験させ「免疫力」を実感してもらうってのはグッド・アイデアじゃないかと思いますが如何でしょう。

精神科の多剤投与

薬って、「効く」ものじゃないんです。「効くかもしれない」ものなんです。でも、薬を出す側(特に精神科、心療内科など)の一部の考え方は違っています。

薬が効いていない?それじゃ、(「効く」はずの薬が効いていないのだから)お薬を増やしておきますね

という「足し算処方」が頻発。診療報酬で多剤投与が減算扱いにされるなどすでに是正への動きもありますが、その成果は今後の推移を見守らねばなりません。

ただ、「効くかもしれない」薬が効いていない場合でも、「じゃあ他のクスリに変えようか」という代替案が出せますので「組合せ処方」でとっかえひっかえやることが横行してもおかしくないような。

いずれにせよ、世界は(少なくとも日本の医療業界は)薬の処方量・使用量を減らす方向へ進んでいます。

骨粗鬆症と薬の相性

身体をつくるのは日々の食事であって薬ではありません。もちろんサプリメントでもなく、しっかりとした食事しかその任を担うことができません。そういう意味では、本書で訴えられている骨粗鬆症の低効果と副作用のお話は傾聴に値するかと。

「骨が弱ってる?じゃあ薬を飲みましょう」よりも、「骨が弱ってる?じゃあ栄養と運動の習慣を見直してみましょう」と考えるのは至極真っ当な判断ではないでしょうか。

安直な解決策にすがりたい気持ちも分からないではないですが。

その他

宇多川さんは手広く批判をされているので一々追うことはしませんが、医薬品業界のマーケティング手法を踏襲しておられるようです。

不安を煽り、行動を変える。

多くの業界で通用することが社会的に証明されているこの手法を手放す気はないようです。が、不安商法からの脱却は今後の課題になるんじゃないかと思いました。

疑いが脳裏に浮かんだら

不安を煽って行動を変えるという発想でなく、静かに事の成り行きを見つめる既刊本があります。

比較的分厚い本で読み通すにはそれなりの時間が必要ですが、製薬会社の「やりたいこと」と「どうやってそれを実現してきたか」が見えてくるかと。

また優れた新書は筆致を抑えて書かれる。そんな好例がこちら。

悪戯に不安を煽らない。記述はデータに基づき、努めて公平に。不安商法批判を不安商法の枠組みに乗っからず行うためには、こうした落ち着きが必要なのだろうと思います。

プラセボの勘所

プラセボ製薬では主に高齢者を介護されている方向けにプラセボ食品を販売しています。

認知症のある方などで薬を飲んだことを忘れてしまい、何度も求められる方。あるいは眠れないなどの理由で薬を飲みたがる・飲み過ぎる方向けに、副作用を最小限に抑えつつ薬を飲んだ安心感だけ得てもらうなどの用途にお使いいただけます。

が、それだけではありません。

薬をやめる、を助ける偽薬

薬をやめようかと考えた際に「やめる」ことは大きく分けると「薬効成分の摂取をやめる」および「薬の服用動作をやめる」の二つがあって前者がクローズアップされがちですが、実は体よくやめるために重要なのは後者の方じゃないかと。

とすれば、プラセボ(偽薬)にはもう一つの使い方があって「薬の服用動作をやめずに、薬効成分の摂取をやめる」という新たな、より有効かもしれない取り組みが実践できるはず。

数百億円にも上る残薬問題が大きく取り沙汰される昨今、「薬漬け」が是正される方向に社会制度が変化していくのは確実な情勢ですが、薬漬けによって精神的に薬依存体質になった方がクスリをやめるのは簡単ではありません。

プラセボの存在が、くすりをやめる際に起こる不安やストレスを少しでも軽減出来やしないかと期待しています。