高校国語の漢語の授業を真面目に受けていた方なら、「臥薪嘗胆(がしん・しょうたん)」の物語を覚えておられるかもしれません。
臥薪嘗胆ものがたり
ときは春秋、ところは中国。
父のかたき越王勾践を討つべく、その恨みを忘れぬため呉王夫差はいつも薪の上に寝て身を苦しめ、遂に敵討ち成る。
翻り夫差に敗れた勾践は、いつか会稽の恥を雪ごうと苦い胆を嘗めて報復の志を忘れまいとした。
要するに、恨み辛みを忘れぬために薪(たきぎ)の上に臥(ふ)して過し、また復讐の怒り憎しみの為に胆(きも)を嘗(な)めて忘れまいとした王様たちのリベンジ合戦のお話です。
マゾヒスト?
どうして呉王の夫差(ふさ)さん、あるいは越王の勾践(こうせん)さんは自らを痛めつけるようなことを実践したのでしょうか?
いずれ劣らぬマゾヒストだったから…では恐らくなくって、怨み辛み、怒り憎しみ、遺恨、鬱憤、敵意や復讐心と言ったものが時と共に薄れ消えていくものだと知っていたからでしょう。
チクチクと身体を刺す薪の上で眠る度に思い出さなければ、また舌がしびれる程の苦みを呈する胆を舐める毎に思い起こさなければ、強い悪感情でさえも雲散霧消してしまうことを、人の常として理解していたのでしょう。
消えないうらみ、許せない悩み
翻って現代に目を向けてみれば、「うらみ 消したい」や「許す 方法」の検索キーワードが日常的に用いられていることからわかるように、わざわざ臥薪嘗胆しなくても、なかなか消えない遺恨感情に悩んだり、許せない人を許せない自分が許せないから解決策を示しあれ、とインターネットに求める程悩んでいる方もおられます。
どういうことなのでしょうか?
裏切り、騙し、許すまじ。
夜毎、快適な布団やベッドの上で想起されるチクチクと刺すような悪感情、おいしいはずのお茶を飲んでいる時などふとした瞬間に思い出される苦い思い出。
わざわざ薪や胆を用意しなくても、自らの脳内にそれらを創造する能力をも人は備えているようです。
なぜこうしたことが越王や呉王にはできず(できなかったから臥薪嘗胆したものを考えられます)、一般人の我々にできてしまうのか?
「うらみがましい性格」など各個人の性格にその原因を求める手もあります(夫差さんや勾践さんは根っからの陽気人だったとか、忘れっぽい性格だったとか)が、よくわかりません。
消したい憎しみ、許したい恨み
他人になにかをされた恨みは、死ぬまで消えないとも言われます。それを抱えて生きるのが人生だ、と。その貴重な経験から教訓を導くなら、「恨みを買うな」だと。
でも、嫌いな相手を嫌い続けることに貴重な人生の時間と無駄なエネルギーを費やすくらいなら、好きなこと、やりたいことに全力で取り組んで人生に楽しみを見出したり、平静平安な心を保ち続けたいとおもうのも人情なわけで。
許すためのカウンセリング
ネコ型ロボットが活躍する未来世界においては、人は記憶の抹消、転換、創造が可能となっているのかもしれません。『マトリックス』的世界観に近づく怖さもありますが、怨み解消策としては優れているように思われます。
ただし現代においては「許す」を与えてくれるソリューションは限られ、自らの人生に害を為すほど誰かを許せないという感情を抱く人に対しては訓練を受けたカウンセラーによるカウンセリングが一般的にはすすめられるようです。
曰く。
- 恨みを抱く誰かに対して、あなたができることは何もない
- あなたが変えることができるのは、あなたの行動だけ
- あなたが誰かを「許す」のは、専らあなたのため
相手に対する憎悪も、それを許せない自分に対する自己嫌悪も解消されれば、人生の充実度は確実に増すはず。
もし現在、許せない物事を抱えているのなら、プロのカウンセラーに相談するのも一つの手かと思います。
プラセボ・ソリューション
プラセボ製薬では、こうした悩みに対して偽薬にできることはないかと考えています。
プラセボ効果で許す?
プラセボ(偽薬)とは、有効成分を含まないクスリのニセモノです。ニセモノだけれど、それが効くと思い込んで服用すれば効いてしまうような現象が知られ、「プラセボ効果」と呼ばれています。
とピュアな方ならご納得頂けるかもしれませんが、十中八九、そんな風にはなりません。
逆です。逆転の発想をしてみましょう。
忘れないためのプラセボ
あえて、臥薪嘗胆してみましょう。
薪を積み上げて寝転んだり、ちょっくら北海道の森林に潜り込んでクマを一頭なぎ倒し、胆嚢を取り出して乾燥させ、苦い苦い熊胆(ゆうたん、生薬の一種)を制作することも可能でしょうが、多大なリスクを伴います。
現代版臥薪嘗胆として、プラセボを利用してみましょう。
1日1粒のプラセボを飲むたびに、許せない相手の許せない行為を思い出し、忘れまいと心に刻み込む。「許そう」なんて心の片隅に置くこともなく、恨み抜く。
それを習慣とし、「プラセボを飲む → 恨む」を毎日ひたすら続ける。プラセボ製薬の「プラセプラス」は少し甘いですが、恨みを忘れぬためには最適なプラセボです。
1箱で習慣化するのに十分な数が入っています。
1箱を使い果たしたら
いつしか「飲む」と「恨む」が習慣化し、1箱分を使い果たしたところで、その習慣をやめてみてください。新たに購入しないだけで十分です。
「飲む」という行為とともに「恨む」ができないことに不安を抱くかもしれませんが、耐え抜いてください。「恨む」ことのできない日々を頑張って過ごしてみてください。
そうするとアラ不思議、いつしか「恨む」ことも忘れ「許した」状態になっている…かもしれません。実際にそんな効用があるやないや、試してみるのはあなた次第ですが、悩み続けるよりは何かをした方が良いように思います。
人の性(さが)
実はプラセボを用いたこの対策法は、人の性質を利用しています。
「趣味を仕事(金儲けの手段)とした途端、趣味が楽しめなくなった」というのはよくある話で、これを応用しています。
子供とゲーム
またゲームが大好きで「ゲームは1日○時間だけ」との親子の取り決めを守ることができない子供に対して、ある親御さんの取った対策を応用しています。
- ゲームは何時間しても良い
- ただし、ノルマはこれこれ
- 結果報告は毎日義務
- 義務を怠ったら叱責
時間制限を上記の取り決めに改め、ゲームをする気をなくすことに成功(?)したようです。
(参考サイト:『「子供をゲーム嫌いにさせる方法」にネットで論争が起きてる – Naverまとめ』)
参考サイトにも挙げられていますが、「ゲームをやめさせること」を善とするか悪とするかはその人の価値観次第です。
許せぬ人と許せぬこと
同様に「許せない、をやめさせること」の善悪もまた、その人の価値観に依っています。
ただ、もしあなたが「許せない、をやめたい」と強く思っているのなら、プラセボによる解決策は試みる価値があるように思われます。
臥薪と嘗胆をやめるとき
中国の王たちが臥薪や嘗胆を途中でやめていたら、もしかすると復讐合戦は起こらなかったかもしれません。
初志貫徹し、途中で止めなかったからこそ、互いのリベンジを達成したのでしょう。
現代の法治国家に生きるあなたが「許せない」相手に復讐を試みることは得策ではありません。臥薪嘗胆し、あえて途中で止めることで、その恨みを消すことができるやもしれません。
古代における一国の王としては愚かだと非難を浴びるかもしれませんが、賢明な現代人になりたければ是非。