日本の医療費は年間およそ40兆円…というおぼろげな理解は広く共有されていますが、それ以上に細かいこととなると一般にはよくわかりません。
厚生労働省が「医療費の動向調査」として月次および年次で報告しているものの、医療費の総額や前年からの変化率をただ数値で示すだけなので、パッと見てすらすらと理解できるものではありません。
本記事ではそうした分からなさを少しでも解消するための図・グラフを提供します。
総額
まずは概算医療費の総額を見てみましょう。厚生労働省によれば「概算医療費」とは「労災・全額自費等の費用を含まない」医療費で「医療機関などを受診し傷病の治療に要した費用全体の推計値である国民医療費の約98%に相当」するもの。以下、「医療費」は「概算医療費」を意味します。
上図は2000年から2019年までの医療費総額の推移を示したグラフ。左側の目盛りが10兆円単位であることからもわかる通り、極めて大きな金額を扱っています。冒頭で述べた通り2015年頃には40兆円を超え、さらに増加、さらなる伸長が見込まれます。
制度別の総額
日本において医療機関を受診する場合、本人が負担するのは一部のみとなっています。これは全国民がいずれかの医療保険制度に加入している皆保険制度となっているため。「世界に冠たる皆保険制度」などとも称されますが、実情はそう明るいものではありません。
さきほどの総額図を、各医療保険制度ごとの金額で色分けしてみましょう。
会社勤めの方などが加入する「被用者保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合など)」、自営業者・無職者などが加入する「国民健康保険」、75歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」など、各種の制度別に塗り分けています。
なお、制度は名称や内容が変更となっており、年次によってはかつて存在した「老人保健制度」として示しています。
積み上げ型ではなく、個別に推移を確認してみましょう。
よりはっきりと、近年の医療費推移の内訳が分かるようになりました。2007年から2008年の大きな変化は制度変更によるもの。高齢者の扱いが変わりました。
さて、やはり何といっても「後期高齢者医療制度」に基づく医療費の伸長が目につきます。「超高齢社会」となった日本においては75歳以上の高齢者が増え続け、医療費も増大しているようです。
さらに2015年以降の「被用者保険」の増加と、「国民健康保険」の減少の対比も気になるところです。この現象を解釈するために、もう一つのグラフを確認してみましょう。
一人当たり医療費
こちらは医療費の総額を各保険制度の加入者数で除した一人当たりの医療費推移です。やはり高齢者では一人当たり医療費も高いことが分かります。
さて、先ほどの「被用者保険」と「国民健康保険」の増減の対比がこちらの図では確認できません。むしろ国民健康保険においてより一人当たり医療費の増加率が高いようです。
したがって、「被用者保険」と「国民健康保険」は加入者数が変化したことで医療費総額が増減したのでしょう。より具体的に言えば、国民健康保険の加入者が被用者保険へと移行した結果がさきほどのグラフで見た増減の対比を形作ったものと考えられます。
実際、2016年からパート・アルバイトなど短時間労働者の方が被用者保険へ加入しやすいよう制度が変更されました。
(参考・政府広報オンライン)パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象が広がっています。
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201607/2.html
そしてこの流れはさらに加速し、より多くの方が被用者保険の対象となるよう制度改正が為されており「社会保険の適用拡大」というテーマで様々な媒体がこれを説明しています。
社会保険の適用拡大は企業・現役世代の負担増(後期高齢者支援金)によって後期高齢者医療制度を存続させるための一時しのぎ的な措置でもあり、「世界に冠たる国民皆保険」の暗い部分を象徴しているようにも思われます。
被用者保険の内訳
さて、ここで改めて「被用者保険」によりフォーカスし、その内訳を見てみましょう。
まずは「加入者本人」と「加入者の家族」、それぞれの医療費総額推移を示します。
次いで、一人当たり医療費の推移。
両図を比較してみれば、一人当たりの医療費が足並みをそろえて増加しているのに対し、医療費総額の方は「本人」が大きく増加していく様子がうかがえます。
先ほど挙げた「社会保険の適用拡大」という制度の変更とともに、単身者・未婚者の増加や子供なし世帯の増加など、別の社会的側面がうかがえます。
おわりに
医療費は社会を反映する、あるいは反映せざるを得ない指標であることが分かりました。そして、問題も抱えています。
当ブログでは医療費について実直に見据えるための、より分かりやすい図表やグラフを提供する予定です。
さらには“まだ誰も見たことがない”統計動画が提供できればと考えています。