平成28(2016)年3月22日、厚生労働省の高齢者行政を担当する老健局振興課より、下記のお知らせがでていました。
「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの創出・活用」に係るシンポジウムの開催について
平成27年度の老人保健健康増進等事業において、「地域包括ケアシステム構築に向けた民間企業による高齢者向けヘルスケアビジネス等の展開に関する調査研究事業」(事業実施主体:株式会社日本総合研究所)を実施しておりますが、当該事業の一環として、3月29日(火)に標記のシンポジウムを開催することとなりましたので、お知らせいたします。(別添)
「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの創出・活用」に係るシンポジウムの開催について
シンポジウムにおいては、3月末に取りまとめる「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」(保険外サービス活用ガイドブック)に掲載予定の一部の事業者を招き、取組内容の紹介やトークセッションを通じて、公的保険外サービスに取り組む上での課題やその解決策等について議論を深めることとしています。
保険外サービスの拡充に向けて
介護保険制度は創設当時より財政的な困難を抱え、高齢化がますます進展するために現状の改善や維持は見込めず、どちらかと言えばサービスが低下してゆく運命にあります。
度々言及される社会保障制度の持続可能性とはすなわち、負担と給付のバランスをとることに他なりません。今後の制度改革の流れを見る上では、「(2015年度現在は)負担に対して(給付)サービスが良すぎる」という視点を持つことが大切かと。
また「準市場」と呼ばれる公的保険制度の下では、なにより被保険者の「平等性」が重んじられることになります。現状が「平等」であるかはともかくとして。
介護現場でよく言われる、サービスの悪さや非効率や融通の利かなさはこうした制度の特性に依っている部分があります。
また事業者が儲け過ぎることはもちろん、介護職員の仕事に見合う給料を支払うことができるだけ儲けることですらできない原因の一端も、公的なサービスであるという特性に依っています。
じゃあ、どうする?
自費負担で受けられる保険外サービスを拡充すればいいじゃない!というわけで。
保険外サービス活用ガイドブック
上掲のPDFに記載された「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(仮)」(保険外サービス活用ガイドブック)。
その中で事例集としていくつかの保険外サービス事例が紹介されるようですので、先だって調べてみましょう。
けあピア食事サービス「バランス弁当」
三菱商事グループの介護事業会社で東証2部に上場している株式会社日本ケアサプライが提供する、けあピア食事サービス「バランス弁当」。
「バランス弁当」に近い食事提供サービスとして、以下のようなサイトがあります。
※2016年9月現在、上記ページはけあピアの「バランス弁当」へと更新されたようです。
また、マイナビ転職における当社のページを閲覧すると、以下の記載が。
★win-winなビジネスモデルとして注目度上昇中★
介護保険外サービスは介護保険内の事業収入に加え、商品販売によって施設が保険外の収入を得られ、必要な方に食事を召し上がって頂くという国、事業者、利用者がwin-win-winとなるモデルを目指しています。
誰もが納得する仕組みを作ることは難しい面もありますが、一緒に新時代のサービスを創出していきましょう。
詳細はわかりませんが、「当社ではデイサービス等での冷凍弁当の販売という新事業をスタート。」との記載がありますので、冷凍弁当&専用の解凍マシーン(会社ホームページに写真あり)を介護事業者向けに販売し、介護事業者はほかほかでおいしいお弁当を利用者に販売することになるのかなと思われます。
元気が出る学校・大学(循環型介護予防エコシステム)
熊本大学大学院医学教育部で公衆衛生分野を専攻し、研究に従事していた代表・松尾氏が大学院3年生の時に設立したという株式会社くまもと健康支援研究所が提供する、「元気が出る学校・大学(循環型介護予防エコシステム)」
コンセプトは「学校」であると明確に謳い、「卒業」などの概念を用いて、高齢者自らが主体的に(自分自身を実験台として?)インフォーマルサービス(=保険外サービス)の開発にまでつなげようとするシステムのように思われます。
会社ウェブサイトには過去の実績が掲載されている外、他にも「目指そうPPK!(ピンピンコロリ)元気高齢者があふれるまちへ」などの記載があり、非常に興味深いです。
オーダーメイド型訪問看護
慶應義塾大学看護医療学部卒業、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科博士課程単位取得退学の高丸氏が代表を務める株式会社ホスピタリティ・ワンが提供する、「オーダーメイド型訪問看護」
紹介動画がアップされています。
保険、自費、看取り~葬儀までの一気通貫サービスは「業界唯一」だそうです。
また、「保険外サービス」を活用したより良き人生へのサポートを明確に謳っています。
保険ではサポートしきれないニーズが存在することから、 介護保険制度は構築された当初から自由診療との混合サービスが認められております。そこには無限の介護サービスが生まれて来る素地があるということになります。
善かれと思って提供されたサービスがご本人様・ご家族様それぞれのニーズに合っていなっかったら。 選択したサービスが思っていた内容と違ったら。終末期において、それは特に取り返しのつかない時間を過ごすことになってしまいます。
ホスピタリティワンはそのようなミスマッチを無くすべく「死への準備」 そして「エンディングへの目標設定」をサポートさせて頂き、「私の人生は良い人生だった」と、最期に思って頂けるよう、お手伝いさせて頂きます。
見守り等生活支援サービス
訪問介護を中心に、様々な介護関連事業を手掛ける株式会社やさしい手が提供する、「見守り等生活支援サービス」
生活の色々な場面で起こる困りごとを、些細なモノからやや込み入ったものまで、保険制度下ではできないことまで含めて比較的自由な範囲で解決していくサービスでしょうか。利用例の中には「ネット注文の代行」なども。
産業ソーシャルワーカー
医療法人社団日高会の日高病院を中心とした日高会グループに属し、在宅介護支援事業・医療支援事業をはじめ様々な事業を行う株式会社エムダブルエス日高が提供する、「産業ソーシャルワーカー」
病院等に勤務し入院患者やその家族の社会的な問題解決を図るのが「医療ソーシャルワーカー」なら、介護離職による人材流出を懸念する企業向けに、社員の介護問題の解決を図るのが「産業ソーシャルワーカー」です。
顧客としては、介護離職予備軍たる社員を抱える企業を想定しているようです。「保険内サービス」として家族がケアマネさんに相談する前の段階で、「保険外サービス」として社員向けのサービスを企業に販売するのでしょう。
より良き人生へ
これまで見たように、保険外サービスには様々な可能性が秘められています。「自費だから(≒高いから)」と敬遠する向きもあるかもしれませんが、お金よりはむしろ生きている内にできる経験の方にこそ価値があるように思われます。
特に、「オーダーメイド型訪問看護」を提供する株式会社ホスピタリティ・ワンのウェブサイトに記載されている事柄は、これから始まる「保険外サービス」拡充時代をポジティブに生きる上で重要な示唆があるように思われます。
追記(2016.3.31)
かねてより2015年度中に厚生労働省、経済産業省、農林水産省において作成の上、発表予定であった「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」(保険外サービス活用ガイドブック)が年度末の2016年3月31日、公表されました。