冷え性の進化論的原因は?根本的な改善の秘訣

冷え性でお悩みの方は大変多く、冬の寒さや夏のクーラーによる冷えに加え「冷えは万病の元」なんて言葉にブルブルと震えておられるかもしれません。

手先足先がどうにも冷え切っちゃって…

湯たんぽやら何やら使ってどれだけ温めても、一向に温かくならないのよ…

生姜がいいの?ココアが良いって?ずっと飲んではいるのだけれど、効かなくて…

冷え性は避けるべきもので、根本的な体質を改善して手先や足先を年がら年中温めておきたい。もしかするとそんな風にお考えかもしれませんが、ちょいとお待ちを。

冷え性は本当に悪いもの、避けるべきもの、改善すべきものなのでしょうか?

冷え性に関する身体バカ仮説/身体カシコ仮説

身体はあんまり上手くできていなくって、外部の刺激によって簡単に機能が崩れてしまう。そのような考えに基づく理論や仮説は「身体バカ仮説」と呼ばれます。

典型的なのは「自律神経の乱れ」や「自律神経失調症」などの言葉でありとあらゆるカラダの不調を説明しようとするものですが、前提に「カラダってあんまり賢くないのよね、すぐ参っちゃうし」というコリコリと固まった考えがあります。

逆に、身体はとっても良くできていて、私たちが考えるよりもずっと賢く、多くの生理現象は外部の環境に適切に対処するため身体が自律的に反応した結果だと考える「身体カシコ仮説」があります。

冷え性も、そんな賢いカラダが寒さに適切に反応した結果現れる生理現象だと考えることは出来ないでしょうか?

進化論とエネルギー資源としての熱

私たちの身体について考える時、現代の科学がもっとも頼りとするところは「進化論」です。身体だけでなく、心理面においても数百万年というタイムスパンの進化に基づく解釈には大きな説得力があります。

進化生理学

我々の祖先がサルの仲間であったことは疑いがありません。しかし、サルの特徴である豊かな体毛をヒトは持っていません。体毛を失ったことが火の使用や衣服の着用を促しヒトとしての進化を加速させた…かどうかはわかりませんが、生身の人間の身体が寒さに弱いのは間違いないでしょう。

こうしたヒトの特徴は、エネルギー資源としての「熱」を希少なものとして扱うよう身体を進化させました。それは、自律神経による血流制御の機能に現れています。血管の収縮をコントロールすることで内部から外部へ熱を含む血液の移動を抑制する強力な機構を備えたのです。

したがって冷え性とは、希少なエネルギー資源である「熱」を逃がさないための防御反応です。それは末端を切り捨て体幹部分の保護に集中するという、無慈悲にも思える苦渋の選択の結果だと言えるかもしれません。

それでも、あたたかな血液を手先・足先へ送り込み、冷え切った血液を心臓に送り返すことを続けていれば「生命」がヤバいのは何となくお分かりいただけるのではないでしょうか?

進化心理学

熱帯雨林で樹上生活を送っていた猿を祖先に持つ私たちの身体は寒冷に不慣れですが、心理的にもやはり不得意です。

寒い時期に活動が低下するのは当たり前のように思われます。これを進化的に考えてみると寒い時期には「狩猟・採集で動物や木の実などから得られるエネルギー」が「活動で失われるエネルギー」より小さくなりやすく、動けば動くほど希少な資源が失われていくことになるため活動を制限するのかもしれません。

進化の過程で「冬眠術」を会得することがなかった私たちは寒くとも全然動かなければいずれ死んでしまいますので、温もりを感じる場を発見することに努め、しばらく留まり、食欲に突き動かされるまでは動かないことにしたのかも…?

いずれにせよ私たちの生理機能や心理機能は進化的に出来上がっていますが、数百万年に及ぶ進化の歴史が日常生活とかけ離れているためそれを実感することはほとんどありません。またそうした機能の一部は現代社会と相容れぬものとなって、私たちの生活上の悩みとなっている場合があったりして難儀なことです。

身体を芯から冷やすなら

ヒトの身体を仕組みを利用して敢えて芯から身体を冷やすなら、体温より少し低い34℃~36℃のぬるま湯にしばらく体を沈めると良いでしょう。

体表温と比較してかなり高い湯温のため、どんどん熱を逃そうとして血行が促進されます。

自律神経によって末梢への血行が急速に阻害される水温、例えば22℃以上に設定される通常のプールや25℃~32℃程度の温水プールなどと比べて、テキメンに冷やすことができます。

10分もぬるま湯につかっていれば、冷えの恐さ・ダルさが身をもって実感されるでしょう。

熱の確保と冷え性対策

冷え性が元々私たちのカラダに組み込まれた精妙な熱管理システムだとしたら、これを「根本的に解消」することなどできませんが、「改善」ならば生活を見直すことで達成できるでしょう。

温かく、おいしいものを食べる

「冷え性を改善しながらダイエット!」なんて売り文句があったりしますが、エネルギーを制限するダイエットを冷え性改善と同時に達成することは不可能です。

冷え性の改善を目指すなら、油脂、たんぱく質、炭水化物など熱の元となるもの(=おいしいもの)をしっかりと食べなければなりません。またわざわざ冷たいものを口にして体熱を奪われることのないよう、温かな食べ物を食べましょう。

口呼吸を止めて、鼻呼吸!

意外と思われるかもしれませんが、鼻には熱を保持する機能が備わっています。寒い時期に口から吐くともわっと息が白く広がりますが、あれは水と同時に熱を外に捨ててしまっている証拠です。熱を逃がさないつもりなら、鼻呼吸の方がいくらかましです。

冷えている部分を動かす

熱の配分を適切に行うため、自律神経は血流を自動的に調整しています。その配分の基準は、「どれほど使われているか」という使用頻度や強度によるものです。よく使われている部分には優先的に熱と栄養を含んだ血液を送り込み、あまり使われていない部分は後回しにしてしまいます。

指先が冷えるのなら、意識して指を動かしましょう。一日二日では変化はありませんが、ひと月ふた月と日を重ねるごとにカラダの認識は変化してくるでしょう。

全身を動かして環流を

現代の日本に生きる私たちが飢餓を心配することはほとんどありません。活動によってエネルギーを消費しても、それ以上のエネルギーを確実に得ることができます。

閉め切った部屋でストーブを炊き続けると空気が淀み換気が必要となるのと同様、身体にも換気が必要です。冷えた手先、足先に熱と共に栄養や酸素を含む血液を送り込むとてきめんにスッキリします。歩くなどの全身動作で、身体全体の換気を行いましょう。

温かいお風呂にじっくりつかるのも血を巡らすことになって良いかと思いますが、活動性の低下と共に機能が低下する廃用症候群の例を見ても分かる通り、自律神経は活動量を分配の指標としているところがありますので、ぜひ冷えるところを積極的に動かしましょう。

ココロの冷え性対策

カラダだけではなく、冷えはココロにもスルリと入り込んできてしまいます。「冷えは万病の元」、「冷えると免疫力が低下する」などの言葉がノセボ効果のごとくココロを冷やしてしまいます。

ノセボ効果は、プラセボ効果の反対語。

冷え性はあなたの身体が進化の過程で身に付けた精妙な寒冷対策システムです。あなたの身体を信頼して、冷え性を受け容れる心構えを。

もっとも単純な心の冷え性対策は、オレンジ色でぬくもりを感じる電球色の照明を利用することです。

健康観を変えてみよう

世の中には「身体バカ理論」が溢れています。身体をモノとして思い通りに扱おうとする傲慢さからくるものか、商業主義の弊害かは分かりませんが…。

身体をバカにする商業主義

カラダってのはそもそもバカなんだ。だがコレさえあれば何とかよくなる。どうだ、買わないか?

至る所にそんな文句が並びます。最近は「脳もバカだよ、クスリが必要だね。理論」が多くなっている気もしますが、それはさておき。

「身体バカ理論」に従うと、ココロを冷やしてはカラダを温める先細りの消耗戦になりがちなのではないでしょうか。

身体をカシコにする健康観

一方、「身体カシコ仮説」はどうでしょうか?

カラダの適切な働きを知り、それを信頼してみる。カラダの機能を自ら邪魔するようなことはなるべくしないで、自身のカラダに自信を抱く。そんな健康観があってもいいのではないかと思います。

ココロ冷え性対策に、健康観の転換を。せめてココロだけは「あったか性」でありたいものです。

プラセボもまた、そんな健康観の助けになるのではないかと考えています。

手先・足元がじんわり冷えるなら

何はともあれ、貴重な資源である「熱」を逃さないのが一番の冷え性対策かと思います。

さらに、手先や足先がシンシンと冷えて痛いくらいになっている場合には「熱を外から加える」ことも考慮した方が良いかもしれません。

ただし、冷たくなっている部分を局所的に温めても表面的な一時しのぎにしかならないでしょう。芯からの冷えを取り除くには、身体の機能を上手く活用してやらねばなりません。

つまり、手先や足先に温かな血液を送り込んでやるのです。

これまで述べてきたように、冷えに対して貴重な資源である「熱」を守り通すのがカラダの働きでした。したがって、身体の外部から捨ててもいいやと思えるほどの熱をカラダの中心部に与えてあげる。

余った熱を、身体の末端へと送り届けてあげる。

そんな風に考えてみてはいかがでしょうか。

基本的に、腕から手指、脚から足指までは熱を捨てるための器官です。体幹部に熱を加えて末端部を温めるには、捨てるほどの熱を体内で生み出すか、外から与えなければなりません。

カラダの事を知って、より適切な対策を講じてみましょう。皆様の冷えた身体に、温もりが取り戻されますよう。