最先端スポーツウェア性能と思い込み、どちらがパフォーマンスに影響?

2014年2月に開催されたソチオリンピックにおいて、一部で話題になったのがスピードスケート・アメリカ代表チームの不振問題です。

メダルが確実視されていたランキング上位の米国選手達が、軒並み期待を裏切る結果となってしまった…。

なぜ!?どうして…?

当の選手たちは、「あるモノ」に疑いの目を向けます。

スポーツウェアに向けられる疑い

それは、有名スポーツ用品メーカーが航空機・宇宙船の開発製造会社協力の下、米国スピードスケート・チームの秘密兵器として開発した「Mach 39(マッハ39)」という最新型のウェアでした。

実際のウェア着用時の写真は以下のサイトで見ることができます。

抵抗よ、サラバ!

0.1秒、0.01秒、時に0.001秒を争う競走、競泳、競漕競技においては空気や水のねばっこさを抑え、振り切ることが勝利の必須要件となります。

選手たちは体毛をきれいに剃り上げ、空気抵抗を生み出す乱流の発生を抑えようとします。

また2008年ごろに話題となり、その後公式大会での使用が禁止されたSPEEDO社のハイテク・スイムスーツ「レーザー・レーサー」は筋肉の凹凸を抑えるとされています。

ソチ五輪で話題となった「マッハ39」も空気抵抗を解析する数多の風洞テストを繰り返し、限りなく抵抗を抑える工夫を凝らして開発されたようですが、実際に使用してみると体熱を逃すために背中に開けられた通気口が空気を取り込み逆に抵抗を増しているのではないか?と疑問視されることとなりました。

結局新規ウェアは以前から使用されていたものに変更され、机上の空論は大一番でスベってしまった…でも、本当に?

プラセボ/ノセボ効果の観点から

最近出版された『Faster, Higher, Stronger: How Sports Science Is Creating a New Generation of Superathletes–and What We Can Learn from Them』という本の中で、別の原因が挙げられているそうです。(参考:『More about placebo – SomaSimple Discussion Lists』

「米国スケート選手達が新たなスケート・スーツでは遅くなるのではないかと疑い出すとすぐに、その通りになった。それは、スーツのテクノロジーとは関係なく。選手たちの信念、思い込みの効果と関係があった。思い込みの効果(すなわちプラセボ効果)は、我々の生活に強く影響している。アスリートにとって、思い込みの効果は競争に立ち向かう準備をするのに重要な位置を占めている。」

「実際の処置の効果を導入せずとも、新規のエキサイティングな処置がパフォーマンスを向上させると信じ込ませるだけで実際に成績が向上するという事を、スポーツ科学者たちはよくよく目にしている」

著者マクラスキー氏は、逆もまた起こりうると信じている。「何かがあなたをスローにさせていると心配しだすと、本当にそうなるだろう。それが、米国スケート選手たちの頭に新規スーツに対する疑いが擡げた時、古いものに戻したことが良い判断だったと考える理由だ。」

メンタルとフィジカルの関係

プラセボ効果による、レースという実践での成績向上例が報告されています。

大抵のトップ・アスリートたちは試合で最高のパフォーマンスを発揮するためのメンタル・トレーニングを重要視しています。

プラセボ効果はメンタル・トレーニングの範疇となるのか、はたまたプラセボ効果がメンタル面のトレーニングを凌駕するのか、あるいはその逆か…。

スポーツや日常生活においてメンタルがフィジカル・パフォーマンスに影響することは明らかでしょうが、どれほど、どのように影響するかはまだまだ未知に満ち満ちています。

思い込みで現れる悪い効果たるノセボ効果が国の威信をも傷つけうるとしたら、あの国は黙ってはいないでしょう。

2018年の平昌オリンピックのメダリスト・インタビューではこんな回答が得られるかもしれません。

「えぇ、わたしが勝つことはレース前から分かっていました。信じるに足るものを身に着けていたので」