『依存症ビジネス』は依存症とプラセボ効果の未来を照らすか?

『依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実』(デイミアン・トンプソン著、中里京子訳、ダイヤモンド社)は、現代社会に住む我々が常に気にかけておくべき依存症という習慣について考察した良書です。

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プラセボ効果の科学的解明が脳の神経化学的還元論によって為されようとしているように、依存症もまた神経化学による追及を受けています。

しかし今のところ、両者ともに「何故起こるのか」、「誰に起こるのか」は明らかになっていません。もしかすると科学は、それらが原理的に解明不可能であることを証明しつつあるのかもしれませんが、まぁいずれにせよ。

依存症って?

本書が繰り返し述べるところを一部挙げると、

  • 依存症の最たる特徴は、徐々に「人」を「物」に置き換えていくことだ
  • 依存症は病気ではない
  • 依存に至るには“フィックス”の入手しやすさによる

などなど。

「依存症の最たる特徴は、徐々に「人」を「物」に置き換えていくことだ」や「依存症は病気ではない」という主張に関しては本書を参照いただくとして(実に納得のいくものです)、身近に感じられるのは「依存症の蔓延は“フィックス”の入手し易さによる」という主張です。

“フィックス”とは、すぐに気分を良くしてくれるもの。

一昔前には入手が不可能か著しく困難であった“フィックス”が、インターネット等のIT技術、モバイル・テクノロジーの発達によってとっても簡単に手に入るようになったことが、現代的な依存症の広がりに一役も二役も買っているのは間違いありません。

溢れる“フィックス”

イギリス、アメリカが舞台の本書では、“フィックス”の例として下記のような多彩な顔ぶれが挙げられています。

  • カップケーキ
  • iPhone
  • 鎮痛剤
  • アルコール
  • お買い物
  • フラペチーノ
  • オンライン・ゲーム
  • モバイル・ゲーム
  • 無料ポルノ動画
  • 危険ドラッグ

これらの多くは日本においても人気を博し、依存症をも生み出しているように見受けられます。

我々の社会が、なりふり構わずお金を貢いでくれる依存症患者に依存して経済を回しているとしたら、身の回りに入手しやすい“フィックス”が溢れかえるという社会的な変化はますます加速しつつ拡大していくでしょう。

『依存症ビジネス』が提案すること

進化心理学、神経化学的には「好き」と「欲しい」の感情の出所は異なっており、いつでも「欲しい」は「好き」を凌駕するし、ヒトを動かすのは「快楽の経験」ではなく「欲望の経験」だ…という観点から本書では“フィックス”への対抗策の可能性を述べています。

ただし、そこにあるのが希望か絶望かは分かりませんが。是非、本書を手に取りご確認ください。

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気分が悪くなるまで甘いものを食べ続けたことのある人、休日をまとめサイト巡りでつぶしたことのある人、時間を忘れてエロサイトのリンクを辿り続けたことのある人、スマホがなくて不安に陥ったことのある人などなど、依存的行動をとった記憶のある方は是非。

依存症とプラセボ効果

依存症とプラセボ効果は、以下の点で似ているように思われます。

  • 確固とした定義ができていない
  • 神経化学的手法により科学的解明が期待されている
  • 何がその現象を起こしているか分かりにくい
  • 誰にその現象が起こるか分からない
  • 多分に気分の関わる問題

またプラセボに対する依存が発生することが知られています。

これらの現象の謎に挑戦するのは隆盛する脳科学だけではありません。

社会科学的な実験が今もどこかで大量の被験者を対象として続けられており(それはゲームやアプリや宗教の形を取っているかもしれない)、他者より一歩でも半歩でも先を行こうと必死になっています。

これらの挑戦がどこまでの答えを提示できるのか。興味は尽きません。