アルツハイマー病治療薬候補「aducanumab(アデュカヌマブ)」の臨床試験結果が話題に

有力な新規医薬品候補、それも、現在のところ根治薬がないアルツハイマー型認知症治療薬の有力候補の登場ともなれば、前のめり気味な報道がなされるのも当然かもしれません。

2016年の海外報道

Alzheimer’s: New drug that halts mental decline is ‘best news for dementia in 25 years’ – The telegraph
(アルツハイマー病:精神的退化を止める新薬は「ここ25年で最善の認知症関連ニュース」だ)

Immunotherapy for Alzheimer’s Disease Shows Promise | The Scientist Magazin®
(アルツハイマー病に対する免疫療法が明るい見込みを示す)

Scientists may have ‘game changer’ drug to treat Alzheimer’s – RT America
(科学者たちはアルツハイマー病治療の“ゲーム・チェンジャー”医薬品を手にしたかもしれない)

ゲームチェンジャー?

ちなみに、

ゲームチェンジャーとは、業界の競争ルールを破壊し、物事の流れや優劣を根底から覆してしまう程の新しい可能性や思想を持つ個人や製品、企業などのこと。

「ゲームチェンジャー – マーケティングWiki」

新規医薬品開発の初期段階で「夢のクスリ」ともてはやされるものは多いのですが、まだまだ前途は不明瞭です。

Nature誌に掲載された臨床結果

さて今回のニュースは2016年9月1日に学術誌『Nature』でオンライン掲載された臨床試験結果の報告に基づいています。

165人のアルツハイマー病初期段階の方を対象とした試験で、プラセボと比較して有意に改善を見たとのこと。

こちらの英語サイトに掲載された論文のfigure(図)を見れば、冒頭で伝えた「前のめり」感の理由が分かるかもしれません。

論文の内容の詳細につきましては、ご自身でご確認いただくか続報をお待ちください。

Aducanumab(アデュカヌマブ)

被験薬となっているaducanumab(アデュカヌマブ)は、バイオジェン社が開発を進める抗体医薬品です。

アルツハイマー病患者の脳に見られるアミロイドβの沈着(プラーク)。このアミロイドβペプチド凝集体と特異的にくっつく抗体を脳へ投与し、洗い流してキレイにする…というのが基本思想でしょうか。

例によって「アミロイド仮説」に則っています。

現在、米国では2,700人のアルツハイマー病患者を対象に第三相試験が実施されているようですが、公表された情報に依りますと、治験終了は2022年ごろを予定しているようです(http://www.alzforum.org/therapeutics/aducanumab)。

ちなみに、日本においてもバイオジェン社のウェブサイト上で

現在被験者登録中の臨床試験(日本)

アルツハイマー病:
Aducanumabの第3相試験では、アルツハイマー病の早期段階の方々の被験者登録を実施しています。

と記載がある通り、着々と開発が進行中であることが伺われます。

日本語表記

日本語読みの「アデュカヌマブ」は上記リンク『Nature』日本語版を参照しています。

「Monoclonal Anti Body(モノクローナル抗体)」と呼ばれる非常に特異性の高い抗体を医薬品として用いたものは、その頭文字をとって、名前のおしりに「mab(マブ)」が付けられますので、これを機会に覚えておいてください。

今後について

※もちろん内部関係者として何がしかの情報を握っているわけではありませんので推測であることをご承知の上、読み進めてください。

数年は候補であり続ける

今後数年にわたる第3相試験の結果が、2023~2025年ごろには出てくるでしょう。

この結果が明らかになるまでは、あくまで有力候補であり続けます。

上記のような治験に参加する以外、アルツハイマー病の方やご家族がすがる気持ちで求めても得ることはできません。

うまく効果を示せるかもしれないし、もしかするとプラセボと同程度の効果であることが示されるかもしれません。第3相試験にまで進んだ医薬品候補が、ここで夢破れる例は枚挙に暇がないのです。

高価な抗体医薬

また2016年現在、がん治療薬(ニボルマブ(オプジーボ))が有望なれど大変高価だ、高すぎるのではないかと議論になっていますが、これは「抗体」とよばれる生体内物質を人為的に操作し医薬品として用いたものです。その製造には特殊なノウハウとコストが必要とされます。

「マブ」の特徴的な接尾辞が示すように、今回紹介したaducanumab(アデュカヌマブ)も同様に抗体医薬品と呼ばれるもので、その価格は非常に高価なものとなるでしょう。

少子高齢化を背景とした医療費高騰問題は、既に認知症治療を含むあらゆる医薬品使用に厳しい目が向けられているところではありますが、更なる議論を呼びます。

2025年、700万人が認知症となるとされる日本の状況でも、医療保険を介して安価にこの医薬品が手に入るとなれば患者や家族が殺到するはず。

認知症患者が劇的に回復し、介護負担が飛躍的に軽くなり、若者が新たにイノベーティブ分野へ進出して景気回復…という夢物語が実現しなければ財政は確実に破綻してしまいます。

破綻を避けるもっとも現実的な方策は、「自己負担率の増加」です。

もしaducanumab(アデュカヌマブ)が医薬品として認められたとしても、それは「お金さえあれば手に入る」存在となるかもしれません。

それは、もしかすると「アルツハイマー病治療薬が無い世界」とは違った心理の働きを生み出すかもしれません。

当該医薬品が日の目を見るか否かを判断するのは時期尚早でしょうが、10年後、医療費をめぐる財政環境は悪化しているものと思われます。福音となるか、あるいは…。

2019年、開発中止

アデュカヌマブの開発は中止された、と各種メディアが報じました。

【バイオジェン/エーザイ】「アデュカヌマブ」の開発中止‐抗Aβ抗体、最終段階で決断

薬事日報(2019年3月25日)