プラセボ効果が出やすい人と出にくい人がいるようです。
どのような人にプラセボ効果が出やすいかを考えてみると、ちょっとした暇をつぶすことができます。
- 白髪を染めると若返った気分になる人
- ハンドルを握ると性格が変わる人
- 催眠術にかかりやすい人
- 何度も詐欺に引っかかる人
もちろんこれらには何の科学的根拠もありませんが、「あなた、プラセボ効果出やすそうだね」は「あなた、だまされやすそうだね」に聞こえたりして剣呑です。
科学的探究
科学者もまた、このテーマに興味を抱いています。
プラセボに反応しやすいのは誰か?
プラセボ効果の有効利用は現在の科学的医療を劇的に変える可能性を秘めていますが、プラセボ効果がなぜ/どのように現れるかは今のところはっきりとしていません。
科学者が興味を抱いている理由の一つは、もしプラセボに反応しやすい人がどういった集団でどのような特性を持っているのかが分かれば、この謎を解くことができるかもしれないからです。
しかし、もう一つ大きな理由があることも知っておかねばなりません。
プラセボ効果の出やすい人が事前に予測できれば、お金になるのです。
製薬会社のお悩み
新薬を開発して大きな利益を得ようとする製薬会社にとって一番の障害は、プラセボ効果です。
新薬は、ただ効くだけでは市場で販売することが認められません。プラセボより効果があると認められない限り、世に出ることは無いのです。
それって当然じゃない?
当然です。ところがどっこい、この壁は得てして高すぎる壁として製薬会社に立ちふさがります。そこで、この高すぎる壁を適切な高さに調節するために、プラセボ効果が出やすい人を事前に予測して対象から除外する手法が検討されています。
Science 19 September 2014:Vol. 345 no. 6203 pp. 1446-1447 DOI: 10.1126/science.345.6203.1446
特に遺伝子に基づいた方法は客観的に判別が可能なので、導入しやすいのではないでしょうか。“新し物好き”などの性格から主観的に判別するよりは、よっぽど科学的に見えます。
もし判別法が開発されれば、生き残りを賭けた製薬会社はこぞって跳び付くでしょう。
金のなる木が、そこにある。
もう一つの解釈
プラセボ効果が強すぎることには、もう一つの解釈があります。それは、「ホンモノの薬の効果が弱すぎる」というものです。
よりわかりやすく言えば、「ホンモノの薬の効果はプラセボ効果でしかない」。
この解釈の長所は、臨床現場で現実に起こっている現象をシンプルに説明できることです。
ホンモノの薬がプラセボを超えられないのは、ホンモノの薬がプラセボでしかないから。以上。
逆にこの解釈の短所は、それが製薬会社にとって不都合であることです。
真実の牙城たる科学の世界は、マネーによって駆動されています。しかしそれは忌むべきことではありません。欲望を追いかけていたら真実に辿り着いた。そんなことがまま起こり得るからです。
プラセボ効果の場合はどうでしょうか?今はまだ誰にもわかりません。
シンプルの強み
天動説は現実の星の動きを予測するために複雑怪奇な手法を延々塗り重ねた後、より単純かつ明快に星の動きを解釈できる地動説に取って代わられてしまいました。
また、アインシュタイン先生は言います。
Everything should be as simple as it is, but not simpler.
あらゆるものはシンプルにありのままであるべきだが、単純化しすぎてはいけない。
プラセボ好反応者判別法の導入は、臨床試験に複雑性を採り入れることになります。
シンプルの原則が真実を見せてくれるわけではありませんが、複雑性の導入が真実を照らしだすかと言われればそうでもなく。
科学者の飯の種は、しばらく尽きることがなさそうです。