定期巡回・随時対応型訪問介護看護は24時間型ヘルパー・ナーシングサービス

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と呼ばれる介護保険サービスがあります。平成24(2012)年より提供開始された地域密着型のサービスですが、「随時」と謳っていることから分かる通り、二十四時間の介護ニーズに対応するため新設されました。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護は今後の介護保険制度における、大きな役割を担うものと期待されています。2016年3月時点での状況と、将来の形(の一端)を確認しておきましょう。

夜間の介護需要と、経営環境の厳しさ

厚生労働省が提供する「介護サービス情報公表システム」において、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は以下のように説明されています。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、定期的な巡回や随時通報への対応など、利用者の心身の状況に応じて、24時間365日必要なサービスを必要なタイミングで柔軟に提供します。また、サービスの提供にあたっては、訪問介護員だけでなく看護師なども連携しているため、介護と看護の一体的なサービス提供を受けることもできます。

介護員や看護師が、呼べばいつでも来てくれる。サービスを利用する要介護高齢者宅とサービス提供事業所がテレビ電話などでつながっており、オペレーターが24時間体制で対応してくれる、大変便利なサービスと言えるでしょう。

夜間・深夜帯のサービス提供は厳しい

そもそも2000年の介護保険制度創設時点より、夜間・深夜でも求めに応じて訪問介護サービスが提供されていましたが、採算が合わないため多くの事業者は撤退してゆきました。

赤字では、どうしてもサービス継続が出来なかったのです。

事業者側の経済的な制約から供給が需要に追い付かない状況を改善し、24時間型のヘルパーサービスを再構築するものとして、2012年より定期巡回・随時対応型訪問介護看護が設定されました(が、現状では黒字化が容易ではないとも言われています)。

特徴としては利用者負担が「月ごとの定額払い」になることが挙げられます。サービスを受けた分だけ自己負担する「出来高払い」ではありません。

地域密着型サービス

また、超高齢社会を迎える(=団塊の世代が75歳以上となる)2025年までに構築するとされた「地域包括ケアシステム」は、地域に則した介護・医療・住まいなどの提供体制を市町村が主体となって整えることが約されています。

介護保険制度においては、市町村の括りで地域の該当者のみにサービス提供する「地域密着型サービス」が設定されています。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護もまた地域密着型サービスの一つであり、市町村を基本とする枠内のサービスしか受けることができません。

こうした点は定期巡回・随時対応型訪問介護看護と同様に「定額払い制」で「地域密着型サービス」である、「小規模多機能型居宅介護・複合型サービス(小規模多機能型居宅介護看護)」と共に在宅・居宅での介護を推進する地域包括ケアシステムの構築において、大きな期待がかかっていることが伺われます。

サービス提供に関するデータ

定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスは平成27(2015)年度末の現時点において、どのような規模で展開されているのでしょうか。厚生労働省が開示しているデータから概観してみましょう。

事業所数

定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスを提供する事業所の数は、平成24(2012)年のサービス開始以来増え続けています。ただし、2015年10月の時点でも全国で600事業所程度。

これは通常の「訪問介護」が30,000事業所、「通所介護(デイサービス)」が40,000事業所を超えるのと比較すれば、かなり小さな数かなと思われます。

事業所収支

介護保険法では、介護報酬は各々のサービスの平均費用の額等を勘案して設定するとされていることから、各々の介護サービスの費用等についての実態を明らかにし、介護報酬設定のための基礎資料を得ることを目的とする。

上記の目的で3年ごとに厚生労働省によって実施される「介護事業経営実態調査」では、介護事業所の収支に関する調査を行っています。

直近平成26年度の「平成26年介護事業経営実態調査結果(なぜかPDFファイル名が「h25_gaiyo」となっていますが…)」を見てみると、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の厳しい実態が明らかに(参照:厚生労働省「平成26年介護事業経営実態調査結果の概要」平成26年介護事業経営実態調査結果 [1,270KB])。

  • 収入:313.9万円
  • 支出:311.0万円(うち、給与費268.6万円
  • 差引: 2.9万円

収入に対して給与費が85.6%と、ほぼ人件費で占められます。訪問系のサービスでは、給与費割合が高くなるようです。

また、差引の収支差率は0.9%。デイサービス(通所介護)などは収支差率がより高い(10%程度)ことから参入拡大が見込めましたが、定期巡回・随時訪問型訪問介護看護では難しいように思われます。

なお、上記の数字は調査に対して回答のあった100事業所の平均値です。より細かく見た場合の収支差率分布は下記のようになっていました(上記資料より作成)。

その他の事業分野も一体的に実施している場合、支出の按分等で収支差率にばらつきが出ることに注意が必要ですが、赤字となっている事業所も多いようです。

受給者数

定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスの受給者(利用している要介護高齢者)数をみると、やはり増え続けていますが、その数は12,000人に留まります。

サービス提供事業所数の伸長に伴い受給者数も増加するものと思われますが、逆に言えば、事業所数が伸び悩めば今後も受給者数はそれほど増えないことになるでしょう。

人材不足がさらに悪化すると目される介護士、看護師など、従業員雇用の確保が最も大きな課題となるのかもしれません。

要介護状態区分

定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービス受給者(利用高齢者)の要介護状態区分を見ると、年を追うごとに比較的軽度な「要介護1」、「要介護2」の割合が増える一方、「要介護4」の割合が減少しています。

全体での推移を考慮していないため、要因については言及しません。

運営法人種別

介護業界には様々なプレイヤーが存在しますが、「営利法人」と「非営利法人」に大別できるかと思います。特別養護老人ホーム(特養)は非営利の社会福祉法人しか運営できなかったり、介護老人保健施設もやはり非営利の社会福祉法人や医療法人しか運営できなかったりします。

ただ、定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスに関してはそのような法人種別による縛りがありませんので、様々な法人が参入しています。直近、平成27年度(平成28年1月審査分)ではどのような構成割合になっているでしょうか?

上図を見ると、半数近くが「営利法人」であることが分かります。凡そ「株式会社」と考えてよいかと思いますが、利益の上がる事業として参入した株式会社によって定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスは支えられているようです。

うまくいっている事例

当記事は下記の書籍を参考にしています。

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こちらの本では著者が実際に運営者やサービス利用者に会い、インタビュー調査を行った事例が掲載されています。その中で、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の事業としてうまくいっている事例が紹介されていました(上手くいかず黒字化できていない例もあり)。

株式会社ゆい

成功している事例として紹介されているのが「株式会社ゆい」という神奈川県の事業者さんです。上記の運営法人区分で言う「営利法人」に当たります。

(出所)http://www.welfare-yui.com/service/patrol.html

著者の分析として、以下のように言及されています。

このような数少ない成功している事業所の場合、一〇年以上旧来の二四時間型の訪問介護(ヘルパー)サービスを提供してきたという実績もあり、成功するには地域との関係も密であることが重要であろう。

ウェブサイトの構成からも、大変丁寧な印象を受けます。どのようなサービスが受けられるのか、具体例も示されていますので気になる方は是非ご覧ください。

将来の見通しについて

超高齢社会となる2025(平成37)年度までに、定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスを受ける要介護高齢者の数はどれくらいになると推計されているのでしょうか?

厚生労働省の資料「第6期計画期間・平成37年度等における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」によれば、2025年度までに6.2万人が利用すると推計(保険者ごとの推計を合算)されています。

介護保険事業状況報告(平成27年12月月報)によれば2015年が1.2万人となっていることから、今後10年でも伸びは5倍程度にとどまるようです。ただし、「社会保障に係る費用の将来推計の改定について」(平成24年3月)に基づく「改革シナリオ」においては2025年度に15万人が利用するとされ、大きなかい離があります。

将来推計については未知数

上記の「改革シナリオ」は平成24年3月時点での将来推計の改定によるものですが、なぜ改訂されたかと言えば「推計に用いた前提(平均寿命や出生率や成長率など)が甘々だったから」に他なりません。

実のところ、改定後の数値でもかなり甘く見積もられた(というか、そうせざるを得なかった?現実を直視することが憚られた?)数値であるようにも思われます。

すなわち、平成24年3月推計に基づく「改革シナリオ」でサービス受給者の見通しが15万人であったのが、より増加する可能性が大いにあります。「地域」で「在宅」で介護や看取りを実施することが拡大されてゆく中で、定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスの重要性も拡大してゆくでしょう。

サービス体系の複雑化

2000年の介護保険制度創設以来、サービスだけに限っても様々なものが追加され、いよいよ複雑になってしまいました。一般の利用者がサービス体系の全体を見渡して自己決定することはほぼできず、ケアマネージャーさん等に頼るしかなくなっています。

保険外サービス活用ガイドブック

さらに、2016年3月末に厚生労働省より提示される「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」(保険外サービス活用ガイドブック)というものも存在します。

「高齢者の“自分らしい暮らし”を支援する」という名目で実践されるようですが、様々な介護サービスは自費で購入してくださいねと言うお話です。もちろん、自費で賄う分にはこれまで望んでも公的制度であるゆえに手に入らなかった、あるいはこれまでに全く存在しなかった画期的なサービスが提供されるかもしれません。

ただし。介護保険財政は既に限界にきており介護報酬の増額は望めない(≒介護士の給料は上がらない・上げられない)ため、事業者は積極的に保険外のサービスを展開することで運営費を賄ってね、というお達しにも思われます。

人生の充実を念頭に

利用者とすれば、ますますますます複雑化してゆくサービス体系に“自分らしさ”を見失うことなく対応するスキルが求められるでしょうが、「より良い経験・時間」を提供してくれる(はずの)保険外サービスを積極的に活用するのも、人生を充実させる上では大切かもしれません。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護のような公的介護保険のサービスと保険外サービスのベストミックスを見出す試みは、もしかすると第2(第3?)の人生の最上の悦びに繋がるかもしれません。

また事業者にとっても、保険外サービスの導入が経営安定化と従業員給与の向上&雇用維持につながる可能性もあり、サービス拡充の機運は高まるのではないでしょうか。