宇宙定数、無作為、プラセボ効果を説明する「隠れた変数理論」

「宇宙は膨張している」という観測事実がハッブルによって報告された時、アインシュタインは重力場方程式という自らの理論へ付け足した、あるものを取り下げざるを得ませんでした。

あるものとは、「宇宙定数」あるいは「宇宙項」と呼ばれる定数。

詳細は「宇宙定数 – Wikipedia」に譲りますが、アインシュタインはあるべき宇宙の姿ではなく、あってほしい(自分にとって都合の良い)宇宙の姿を見ようとしていた自らの過ちを認めています。

宇宙定数の復権

ところが、近年の宇宙論において捨て去られたはずの「宇宙定数」が再び注目を集めています。

というのも、「宇宙は膨張している」という事実に加え、「宇宙の膨張は加速している」という驚くべき観測が得られたためです。

我々が依って立つところの宇宙に関するこの事実は、現代科学における謎として未だ説明がついていません。

その説明のつかなさ、すなわち説明不可能性は「真空のエネルギー」や「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」によって、あるいは「ダークマター(暗黒物質)」の存在によって一応の言い訳がなされています。

トランプゲームの「七ならべ」に例えるならば、手持ちのカードでは埋まらない空白を取り敢えずジョーカーで埋めてしまい先へ進める操作であると言えるでしょう。

ジョーカーとはすなわち、説明原理。それは取り敢えずの説明を付けるために持ち出された原理であり、それ自体は既にあるもの、有効であるはずのものと前提してしまう類のものです。

論理的な説明を付けるためには必要だが、事実それが実在するとは証明されていないもの。

現代科学の足下には、こうした説明原理が案外と潜んでいます。

隠れた変数理論

宇宙項を提唱したアインシュタインはまた量子力学に関する確率的現象をも批判し、「神はサイコロを振らない」と発言しました。

この発言に関しても、宇宙定数と同様の経緯を辿り、批判の末に再検討の時期を迎えています。

詳細は下記参考文献をご覧ください。

神はサイコロを振らないはずで、因果律に基づく決定論的な記述が可能な世界が可能であるのに、現在のところは偶然や確率によってしか記述し得ない世界の実相がある。

しかしながらそれも、我々人間の世界や宇宙に関する理解の限界を示しているに過ぎず、秘密のベールを剥ぎ取ってしまえば何らかの説明変数を得ることができるだろう。

こうした考え方、理論を「隠れた変数理論」と呼ぶそうな。

無作為の有無

無作為(ランダム)性を排除し、因果律によって説明し尽くすことのできる世界。

そうした世界観を望む人にとって、「隠れた変数理論」は願ってもない理論です。

「今はまだ見つかっていない何かによって、未来のある時点で説明を付けることができる」という言明は、任意の時点でも真の可能性があるためです。

ただ、優れた数学エッセイにて「資源としての「無作為」」という興味深い章において示されているように、無作為の実在というある種の哲学的考察を通じた結果として、

(前略)無作為を追い払おうとして隠れた変数を引っ張り出すと、ひどく高くつくからで、そのような変数をもちこんだとたんに、ほかの種類の因果律、すなわち、情報は過去から未来に向かってしか移動できず、その速度は光の速度を超えない、という原則をあきらめるしかなくなる。

(中略)わたしは寡聞にして、隠れた変数理論をめぐる議論に決着がついたという話をまだ耳にしていないが、当面は、本物の無作為が存在するというほうに賭けたほうが賢そうだ。

『ベッドルームで群論を』48ページ(ブライアン・ヘイズ著、みすず書房)

と述べています。

プラセボ効果もまた

さてプラセボ効果もまた、ある種の説明不可能性を説明付けるために創り出された概念、すなわち説明原理です。

その点において、ダークマターやダークエネルギーと同じく闇の世界に属するものです。

プラセボ効果と思い込み

ただ、一般的にはプラセボ効果が「思い込みの効果」とさらに説明的に説明されることによって、一応の納得や合意が得られている感があります。

効くって思い込んだから効いたんだろうよ

と言う訳です。

もちろんこれを全て否定するわけではありませんが、何となく物足りなさを感じるのもまた事実。言い訳感あふれるこの説明を、もっと純粋なものへ昇華させてみたい。

隠れた変数理論をプラセボ効果へ援用

ならば、プラセボ効果に説明がつかないのは、ある変数を捉え切れていないことが原因であり、その秘密のメカニズムは「隠れた変数」を見出すことで明らかにされるだろうと考えてみてはどうか?

プラセボ効果の解明に「隠れた変数理論」を援用し、人体を宇宙に見立て、秘密の宇宙定数(プラセボ定数)、宇宙項(プラセボ項)あるいはダークエネルギー(プラセボ・エネルギー)に類するものを理論に取り入れてみる。

世界をもっとシンプルに、エレガントに記述したいという人間の知的好奇心は、「隠れた変数」をためらいなく想定する能力の源泉に、そして同時に科学を進歩させる原動力ともなっています。

虚薬理論

さて、ではその「隠れた変数」の実体は?

もちろんそれは「よく分からないもの」としか言いようがないものですし、だからこそ「隠れた変数」と言われるのですが、ひとまずの目標として虚数を据えてみると良いのではないか、と思われます。

人間を数学的概念で捉えるならば、実数体よりむしろ複素数体が適切であろうと予想する訳です。

もちろんこれも説明原理を説明するために新たな説明原理を付け加える(もしくは転換する)わけで、その意味では現時点において「思い込みの効果」と何ら変わらないレベルの話しかできていません。

しかしながら「思い込みの効果」という言い切りの説明に対し、「虚数(複素数)的記述の可能性」は、数学や物理学における虚数(複素数)の広い応用範囲を鑑みれば、よりワクワクせざるを得ないという性質を持っているように思われます。

ヒトが「隠れた変数理論」にすがる理由は、知的好奇心を、あるいは真善美への憧憬を部分的にでも満たしてくれる欲望の充足にあるのかもしれません。

虚数とは

虚数が面白いのは、その虚なる性質、すなわち想像上の数であるにもかかわらず、この世界を記述する上で欠かせないためです。

『なるほど虚数』(村上雅人著、海鳴社)では、高校数学で現れる虚数に対する高校生の拒否感発生理由を以下のように列挙しています(17ページ)。

  1. うその数字で実体をともなわない。
  2. だから、実生活の役に立たない。
  3. ところが、大学入試の対象にはちゃっかり入っている。

3つ目はともかく、プラセボ効果に関して否定的な意見を持つ人も、そのうそっぽさや役立たなさを挙げているように思われます。

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そうした価値観を覆すべく、『なるほど虚数』では虚数を実体的に捉える説明が試みられます。

曰く、

虚数は遅れ成分を示す

詳細は本書に譲りますが、何らかの操作に対するシステムの反応の遅れ成分は、虚数をリアルの場に引っ張り出すオイラーの公式を介して非遅れ成分と同じレベルで記述することができます。そこには実体的な物理的意味を見出すことも可能でしょう。

同様の議論が、薬理学的効果に対するプラセボ効果にも適用できるのではないか?

そんな風に夢想することもまた楽しいもので。