オープンラベル(非盲検)プラセボはがん患者の疲労に利用できるか?

偽薬だと知らせた上で臨床試験を行う「オープンラベル・プラセボ」の慢性腰痛に対する効果を検証した論文が科学誌に公表されました。

オープンラベルとはすなわち「非盲検」のことです。

臨床試験で一般的な二重盲検法や単盲検法ではなく、プラセボ(偽薬)がプラセボであることを試験実施者と被験者の双方が知った状態で行う試験になります。

オープンラベル・プラセボの臨床的価値

さて、結果はどうだったのでしょうか。

実は、慢性腰痛患者に対して明示的に偽薬であることを知らせつつ偽薬を飲ませたところ、症状改善の度合いが高まっていたとの結果となりました。

これは「偽薬に効果があるとしたら、それは患者が本物だと思い込んでいたためだ」とするプラセボ効果の一般的な理解とは異なっています。

しかし研究者らはおそらく、試験実施前からこの結果を予測していたように思われます。

さらなる臨床試験が進行中

ダナ・ファーバー癌研究所(米国)では、下記のタイトルにて臨床試験の参加者を募っていました。

Harnessing the Effect of an Open-Label Placebo on Fatigue in Cancer Survivors
(癌生存者の疲労に対するオープンラベル・プラセボ効果の利用)

簡単な説明としては、以下の文言が掲載されています。

This research study is evaluating the usefulness of a placebo (a tablet with no active ingredients) on fatigue in cancer survivors.

「当研究ではがん生存者の疲労に対するプラセボ(有効成分を含まない錠剤)の有用性を評価します」くらいの意味でしょうか。

先程紹介した慢性腰痛患者に関するオープンラベル・プラセボの研究もそうですが、まさに臨床的な応用を見据えた研究となっています。

なおwikipediaによれば、ダナ・ファーバー癌研究所はハーバード大学医学部の主要関連医療機関の一つとされ、プラセボ効果研究の第一人者テッド・カプチャック博士の率いる学際的プラセボ効果研究機関「PiPS」と近しい関係にあるように思われます。

様々な疾患へ

もし仮に、薬効成分を含まないプラセボを使って患者の病状を軽減できるのなら、しかも偽薬が本物であるとだますことの倫理的問題をオープンラベル(非盲検)として回避できるのなら、臨床応用上これほど有用なものはありません。

もちろん応用に至るには科学的検証に耐えうるエビデンスが求められるでしょうが、着々と検証が勧められているという印象があります。

しかも、慢性疲労や疲労に加え、睡眠障害やうつ病など器質的変化を伴わない機能的疾患においては既に盲検での比較的高いプラセボ効果が確かめられているところであり、非

盲検化してもその有用性は失われないのではないかという大きな期待があります。

こうした応用範囲の広さは、今後様々な疾患に対するオープンラベル・プラセボの検証が勧められる原動力になるものと考えられます。

まとめ

今回紹介した内容は臨床試験の前段階、実験に参加してくれるがん生存患者を米国にて募集中というものであり、何がしかの知見が得られたというわけではありません。

今後、数年の内に結果が公表されるものと推測されます。

結果の公表

本記事公表後、プラセボでがんに伴う疲労を軽減できたことが報告されました。

参考:海外がん医療情報リファレンス「薬効ないとわかっていても、プラセボ服用でがんに伴う倦怠感が軽減」

ポジティブな結果は、さらなる研究推進の機運を高めるものと思われます。