低栄養状態、あるいはその予備軍に当たる高齢者が増えているといいます。低栄養状態は心身の虚弱(フレイル)を招きやすく、自立した生活を脅かします。
低栄養が発端で自立した生活を維持できなくなり、多くの方が中重度の要介護状態となってしまえば介護保険制度の基盤が揺らぎかねません。
そうした懸念から現行の介護保険制度では居宅サービスの一環として、医師の指導の下、管理栄養士が高齢者宅へ訪問して栄養指導を行うことができ、「居宅療養管理指導」と呼ばれています。
居宅療養管理指導
介護保険制度では、「要支援1」・「要支援2」と認定された場合に「介護予防居宅療養管理指導」の予防給付を一定の自己負担割合で受給することができます。
同様に、「要介護1~5」と認定された場合には「居宅療養管理指導」の介護給付を受給することができます。
具体的には、どういったサービスなのでしょうか?
医療的ケアを、在宅で
在宅で生活している要介護高齢者の中には、専門家の管理・指導の下、在宅で療養すれば通院したり施設へ入所せずとも自立した生活を維持できる方がおられます。そうした方に、自宅へ訪問する形で管理指導を行うサービスが「居宅療養管理指導」です。
ここで言う専門家とは、医師、歯科医師、薬剤師に加え、歯科衛生士、管理栄養士、保健師、看護師、准看護師を指します。
第八条
介護保険法 第八条第6項(抜粋)
6 この法律において「居宅療養管理指導」とは、居宅要介護者について、病院、診療所又は薬局の医師、歯科医師、薬剤師その他厚生労働省令で定める者により行われる療養上の管理及び指導であって、厚生労働省令で定めるものをいう。
第九条 法第八条第六項 の厚生労働省令で定める者は、次の各号のいずれかに該当する者とする。
介護保険法施行規則 第九条(抜粋)
一 病院、診療所又は薬局の歯科衛生士及び管理栄養士
二 病院、診療所又は訪問看護ステーションの保健師、看護師及び准看護師
ただし、薬剤師は医師または歯科医師の指導に基づいて薬学的管理・指導を行うこととされ、独自に療養管理指導を行うことはできません。同様に、管理栄養士も栄養指導が可能ですが、いずれもその者に対して計画的な医学的管理を行っている医師の指示に基づいて実施されることとされています。
第九条の二
介護保険法施行規則 第九条の二(抜粋)
2 法第八条第六項 の厚生労働省令で定める療養上の管理及び指導のうち薬剤師により行われるものは、居宅要介護者の居宅において、医師又は歯科医師の指示(薬局の薬剤師にあっては、医師又は歯科医師の指示に基づき策定される薬学的管理指導計画)に基づいて実施される薬学的な管理及び指導とする。
4 法第八条第六項 の厚生労働省令で定める療養上の管理及び指導のうち管理栄養士により行われるものは、居宅要介護者の居宅において、その者に対して計画的な医学的管理を行っている医師の指示に基づいて実施される栄養指導とする。
5 保健師、看護師又は准看護師により行われる居宅療養管理指導は、居宅要介護者の居宅において、実施される療養上の相談及び支援とする。
保健師、看護師、准看護師については「管理」や「指導」ではなく「相談及び支援」となっており、医師の指示の下に行う「訪問看護」との線引きが現れているように思われます。
予防給付、介護給付の違い
基本的なサービス内容には、「介護予防居宅療養管理指導」も「居宅療養管理指導」も違いはありません。
サービス利用者側は両者の違いを特段意識することもないでしょう。事業者側の「報告」やそれに基づく「報酬」、あとは「統計調査」の際に分別が役立てられることになります。
薬局が栄養管理?
さて、2015年12月13日の日本経済新聞「日曜に考える-医療-」において、「居宅療養管理指導」にまつわる話が記載されていました。
高齢者の自宅に管理栄養士を派遣し、体調などに応じて栄養指導する調剤薬局の取り組みが広がっている。食が細って低栄養に陥る場合があり、「介護食の作り方などを知りたい」という家族らの要望が高まっているためだ。ただ医師の指導のもと、病院などの管理栄養士が指導すれば介護保険が適用されるが、薬局は適用外。定着には課題が残る。
「食の細る高齢者 薬局が訪問指導」
医師の指導&管理薬剤師
上記の通り、介護保険法の規定に基づく「介護保険」の枠組みでは、薬局に所属する管理栄養士が栄養指導をしたとしても介護報酬を請求することはできません。
厚労省は「薬局はあくまでも薬事の仕事をする場所。医師の指示がない中での栄養指導で問題が起きた場合、責任の所在があいまいになる可能性もある」(老健局)との立場。
「食の細る高齢者 薬局が訪問指導 」
したがって、調剤薬局等から管理栄養士を派遣し自宅へ訪問した場合には「(薬局側の言い値で)自己負担」もしくは「(薬局の全負担で)無償」ということになります。
日経記事に出てくる調剤薬局事業者は、栄養指導が営業活動に繋がるとして無料訪問をしているそうな。今後も続けられるかは不透明で、有料にした場合には利用が広がらない可能性があるとされています。
配食サービス
栄養に関する「管理・指導」ではなく、栄養バランスを考慮した食事の提供を担う「配食サービス」もあります。
「配食サービス」には高齢者家庭、独居老人向けだけでなく、時短&栄養バランス向上を訴える一般家庭向けのサービスもありますね。
介護保険の枠組みとして「配食サービス」が設定されているわけではなく、あくまで自己負担のサービスとなります。
ただ、自治体によっては名古屋市のように介護保険特別給付として「生活援助型配食サービス」を提供している場合があります。実施は市町村ごとによって異なりますので、気になる方はケアマネージャーさんに尋ねてみると良いでしょう。
もちろん「栄養バランスを考慮しつつ、料理・自炊ができる」というのは人生観に関わる生活上の一大事ですし、認知症予防の事も考慮に入れれば、「自分でできることは自分でやってみる」という発想もありえると思います。
薬局の管理栄養士にできること
介護保険外の自費サービスは拡充されていく見通しです。
紹介した日経新聞の記事にあるように、「栄養指導が営業活動に繋がるとして無料訪問」をしても良いでしょうが、より高い価値を提供できる専門家として適切なフィー(料金、対価)をいただけるよう研究を続けるのもありではないかと。
介護保険制度の枠に縛られず、またこれまでの栄養学の常識にとらわれず、有料にしても利用が広がるような工夫をこらすことを薬局所属の管理栄養士に対する前向きな発想として提示したいと思います。
栄養状態改善が功を奏し、薬剤師との連携で薬の摂取量を減らせるようなことになれば、より管理栄養士の意義と価値は高まるのではないでしょうか。