子供の咳治療におけるプラセボ効果

2014年10月27日に発表されたアメリカの小児科医からの研究報告を紹介します。

“Placebo Effect in the Treatment of Acute Cough in Infants and Toddlers”
「乳幼児の急性咳嗽(きゅうせいがいそう:せき症状)治療におけるプラセボ効果」

» 原論文(JAMA Pediatrics、英文)

研究の概要

背景

本研究の背景には、米国における以下のような事情がありました。

  • 医療機関を訪れる小児の最も良くある症状は、咳である。
  • アメリカ食品医薬品局(FDA)は小児に対して一般用医薬品を使用すべきでないとしている。
  • 小児の咳症状に蜂蜜(ハチミツ)が有効であるとの報告が既にあった。
  • しかし、ハチミツにはボツリヌス菌が混入していることがあるため、1才未満の小児には与えてはいけない。

そこで今回、小児科医たちはハチミツの代わりに「竜舌蘭(リュウゼツラン)の花茎の蜜(エキス)」を用いて乳児ボツリヌス症の問題を回避することを企図し、1才未満を含む小児(2~47ヵ月齢)を対象に、臨床試験を行いました。

対象

本研究では、咳症状を訴えて米国のある病院を訪れた外来の1才未満を含む(2~47ヵ月齢)小児の内、喘息や肺炎など重篤な病気ではなく、急性上気道感染症(通称「風邪」)と診断された小児患者とその親を対象としました。

小児被験者は総計125名。

方法

  • 竜舌蘭エキス摂取グループ
  • プラセボ摂取グループ
  • 無処置グループ

研究対象の小児をランダムに上記3グループに振り分け、初日の夜には何もしない状態で症状の重さを親に主観的に評価させました(評価は翌朝)。

その翌日夜、就寝30分前に親によって各処置を行った場合の症状の重さを、やはり小児の親に主観的に評価させる方法で行われました。

この時、親にはいずれグループに配されているか知らされていません。ただし、「無処置グループ」は明らかに無処置であることがわかります。

また、主な評価の内容は以下の通りであり、これらの良し悪しをそれぞれ7段階評価させました。

  1. 昨晩の咳の頻度
  2. 咳の重症度
  3. 咳のうるささ
  4. 鼻づまり
  5. 鼻水
  6. 子供の就寝状況
  7. 親の就寝状況

なお、本研究でプラセボとして「ブドウで香りづけされたカラメル色の水」が用いられました。

結果

各グループ毎に「何もしない初日」と「処置を施した2日目」の症状の評価を統計的に比較すると、「無処置グループ」を含む全てのグループで症状は改善していると親によって評価されていました。

次に、各グループの改善度を比較したところ、「竜舌蘭エキス摂取グループ」と「プラセボ摂取グループ」は、「無処置グループ」と比較して統計的に有意に症状が改善していました。

しかし、「竜舌蘭エキス摂取グループ」と「プラセボ摂取グループ」では症状の改善具合に有意な差はありませんでした。

結論

風邪による咳症状が小児およびその親の睡眠を妨げる場合には、ただ注意深く見守るだけよりも「竜舌蘭エキス」あるいは「プラセボ」を小児に与えた方が良い。

また「竜舌蘭エキス」と「プラセボ」には有意な差がなかったことから、「竜舌蘭エキス」が咳症状の改善を促す何らかの有効成分を含んでいるというよりは、むしろプラセボ効果によって症状が改善したと考えるべきであり、「プラセボ」がより良い医療を提供する可能性を提示している。

諸注意

プラセボ効果は、子供に対してではなく、症状を評価する親に対して働いたのかもしれません。

手当てを行ったことが症状の好転につながるはずだと思い込んだ親が、子供のせき症状の評価をより良くする傾向があるとも考えられるからです。

また、本研究はagave nectar(竜舌蘭エキス)や各種咳止めシロップを販売するZarbee’s Inc.によって助成されているようです(参照:Clinicaltrials.gov)。

OTC医薬品で風邪は治るか?

薬局やドラッグストアで購入できる風邪用のOTC医薬品は全て対症療法薬です。

抗ヒスタミン剤や消炎剤(充血緩和剤)、鎮咳薬(せきどめ)、去痰薬(たんきり)などで風邪の諸症状を抑えはするものの、風邪そのものをなおす薬ではありませんし、副作用もあります。

また日本では風邪症状で医療機関にかかると抗生物質が処方される場合がありますが、これらは風邪ウイルスによる感染に対して有効でないばかりか、腸内細菌叢を撹乱するとも言われ、推奨すべきものではないでしょう。

しかし、咳などに苦しむ我が子を前に「どうにかしてやりたい…」と思う親心もありますので、何かをしてやりたいと思われるのは当然のことです。

そんな時、もしかすると今回紹介したような「有効成分は何も含まないけれど、甘くてドロっとしたもの」で症状を緩和してやることができるかもしれません。

注意点

なお、当記事は研究報告の紹介を主目的としており、医学的な措置について何らかの積極的な提案を行うものではありません。

また、上記製品の効果およびプラセボ効果を保証するものでもありません。

子供に与える際に少しでも不安があれば、お近くの医師または薬剤師にご相談ください。