遠隔診療の適用拡大で在宅医療や訪問看護・介護、在宅死のあり方が変わる?

2015年8月10日、厚生労働省より「遠隔診療」のガイドライン通知がありました。

『情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について』(PDF)

情報通信機器とは、現時点ではインターネット接続されたパソコンやスマホ(一部の携帯電話を含む?)にあたるもの。

平成9年(1997年)当時に出された同じく遠隔診療ガイドラインの記載が平成27年現在の状況にそぐわなくなっていたためかと思われます。「テレビ電話等」というレトロな響きはこの頃聞かれなくなりましたので。

なお、本件は医師法第20条及び歯科医師法第20条の「診察」行為を行う医師又は歯科医師が対象となります。

患者にとっての大幅な利便性

離島・僻地に留まらず

これまでの通知とその解釈では、遠隔診療を行ってよいのは、特にその利便性が顕著であると考えられた離島やへき地の患者に対してだとされてきました。

医院の数が限られるか全くない為、遠隔診療でなければ医療から隔絶されるような場合にのみ適用されていたということです。

今回のガイドライン通知ではこれが解釈緩和され、あくまで「例示」であるので、離島やへき地の患者に留まらないことを明確にしました。

つまり、患者自身が望むなら誰でも遠隔医療を受けられるようになったということです。

対象疾患などは設けず

また遠隔診療の対象となる疾患について平成9年通知では、これまた「例示」されていましたが、あくまで「例示」であるので何らかの縛りを作るものではないと。

在宅にて療養中のガン、高血圧、糖尿病、喘息、アトピー性皮膚炎などの患者さんに対しては、危険や困難を伴う場合があるなどの理由から遠隔診療が認められていましたが、それ以外の診療内容でも対応可能であるとの解釈へ明確化されています。

事前対面診療は不要

これまで初診の場合や急性期の場合、あるいは直接診療が可能な場合、遠隔診療によるのではなく直接診療を基本とする方針がとられていました。

この方針もまた緩和され、患者側の要請があり、利点を十分に考慮すれば直接診療を必ずしも要しないことと明確化されました。

※本記事は上記ガイドラインを参照しておりますが内容を保証するものではありませんので、正確な情報はガイドラインをご参照ください。

ヘルスケア産業の対応

治療よりも予防に力を入れるべきとの観点から、様々な商品やサービスが具体化されています。「未病チェック」はその最たるものでしょう。

マッチング・サービス

インターネットの進化・深化、SNS文化の浸透により、容易に個と個がつながる時代になるのに合わせ、仕事、趣味、恋愛、などなど様々なマッチング・サービスが登場しています。

ただ、これまで患者と医師をつなぐサービスは上記のような法律のグレーゾーンにあったために拡大することはありませんでした。が、しかし。今回の解釈明確化により、ぞくぞくとサービスが提供され始めています。

たとえば、こちら。

ポートメディカルは、ITを通じて、医師からの診断・処方・医薬品の配送までを実現します。

ポートメディカル

診察の本領はコンサルティング(相談)であるとされますが、これからは家に居ながらにして高度なコンサルティング・サービスが受けられることになりそう。

また医薬品の配送まで為されるオールインワンのシステムが、現在の医療制度を変えずにはおかないでしょう。

たとえば、待ち時間

病院に行ったけど、2時間も待たされた。

薬局へ行ってから薬を受け取るまでに30分もかかるとか…。

外出機会や人と接する機会が医療機関に係る場合に限定されるような高齢者などでない限り、こうした待ち時間は不要どころかストレス源にさえ現状ではなっています。

インターネットで手軽に医療サービスが受けられるようになれば、通院交通費だってかからない。

在宅介護・看護

在宅で療養中の患者さんやその家族、居宅での介護を支援されている訪問介護や訪問看護の事業者さん、あるいはかかりつけ薬局の薬剤師さんなどにも遠隔診療の拡大は大いに影響を及ぼすでしょう。

上記『ポートメディカル』さんは現在のところ「今まで忙しく病院に行く時間がなかったり、病院に行くのが億劫でそのままにしてしまった方」という自発的に診療を望まれる患者さんを対象とされているようですが、じきに高齢者医療への浸透が進むのではないかと思われます。

ある種の必然性を伴って。

往診・来診の機会が減る?

定期的な訪問診療や患者の求めに応じての往診が、パソコンやスマートフォンなどによる遠隔診療とって代わる未来は容易に想像できます。

医療・介護の両保険財政がひっ迫する中、社会保障費の削減は目下の課題であり、あらゆる場面でITを駆使したコスト削減がなされるはずです。

そもそも、「独居」や「貧困」など高齢者問題が複雑化する中で「少子化」にも対応するというスーパーウルトラミラクルなバラ色の社会制度は設計不可能ですので、国が滅んじゃうよりはどこかで何かを諦めて…というのが制度設計の前提条件になると思われます。

もちろん在宅医療がどうなるのか確かなことは分かりませんが、今、まさに変化の節目に差し掛かっていると考えて差支えないでしょう。

看取り、在宅死

在宅での死を望む方が多いのに、やむなく病院でなくなられる方が多い昨今の現状もまた遠隔診療によって変わってくるかもしれません。

(高度な医療による)延命は望まないので住み慣れた家で死にたいという本人の願いを叶えつつ、看取りの心労をケアしてもらいたいという家族のニーズは大きいはずで、遠隔医療が何がしかを受け持つことになるのではないかと考えられます。

読経を行ってくれるお坊さんが配達されてくる世の中ですので、まぁ何が起きてもおかしくない。

プラセボ製薬にできること

プラセボ製薬では、介護用途にお使いいただける偽薬(プラセボ、プラセボともいう)として「プラセプラス」を販売しています。薬の飲み過ぎや飲みたがりに介護者が適切に対応するための食品です。

遠隔医療に対して直接的な貢献は出来ませんが、そのプラセボ効果を高めるという観点から貢献できるかもしれません。

親密さを感じる医療を

医療行為の何が“効く”のか?という問いが一般的でないのは、薬剤や手術などの明示的な物事がその効果の主体だと信じられているためです。

しかし、プラセボ効果、すなわち「効くと思い込めば効いてしまう」という現象が広く知られており、現在のところ“効く”の主体が何であるかよく分かりません。

これまでに分かっているのは、患者さんが親密さを感じる医療にはより効果があるようだということ。

時間を掛けて話を聞いてもらえた、しっかりとした判断でお薬を出してもらえた、などの感覚が薬効成分などより重要な場合だってあり得るのです。

流れ作業的な診察よりも、余裕を持った診察を遠隔医療が提供できるのなら、それだけで医療が提供する価値は増大するのかもしれません。

プラセボ効果に関する知見が遠隔医療をはじめとする医療をより良くするかもしれない。あるいは、プラセボを用いれば個々の患者さんが財政的に無理なく実施できる範囲でだけ医療を提供することができるかもしれない。そんなことを考えています。