認知症高齢者の介護をされているご家族の方に、よくある体験談。
こうした例は病院などの医療施設や特別養護老人ホームなどの介護施設でも頻繁にみられるそうで、「十二単おばあちゃん」とか「着ぶくれおじいちゃん」とか、服装にちなんだ愛称で呼ばれていることも。
こうした「寒がり」や「厚着」は体温を司る中枢神経系の異常だろうが何だろうが本人の感覚に沿った適切な処置である場合はほとんど問題ありませんが、脱水症状からくる健康問題に繋がることも有るので注意が必要です。
寒がり、厚着の事例
介護相談サイトやヤフー知恵袋等の質問サイトなどでよく見聞するのは、高齢の父母、祖父母が真夏でも「寒い!」と言って暖房を点けてみたり。エアコンなんてつけないし、扇風機で風を送るのだって嫌がる。そんなお話。
異常な寒がり
春が過ぎ夏が近付き、窓を開けて部屋に風を通すと気持ちのいい季節にだって「寒い」といって窓を閉め切り、セーターなど冬用の上着を着たり厚手の下着を着こむ。昼間はずっとこたつに入ったきり。夜に寝る時だって「寒い」ので、真夏だろうが毛布をかぶって大汗かきながら寝ている。
異常とも言える「寒がり」や「寒さ」の訴えは、認知機能低下や体温調節機能の低下によるものかもしれません。
周囲の者から見て、ご本人が以前とは違う気温・室温の感じ方をしているようなら認知症が疑われますし、既にそうした診断がある上で新たな変化として現れたのなら症状の進行が原因かもしれません。
とんでもない厚着
「厚着」をするのは寒さを防ぐためであろうと思われますが、その前提に「寒いと感じるのは、体外の空気が冷たいからだ」という発想があります。
外が寒いのだから厚着をして遮断すれば解消するはずだ、と。
しかし、「寒さ」を感じるのは何も外が寒いからだけではありません。
内的な寒さ、体温の移動を司る血流が滞るために身体の内側から感じる寒さや温感・冷感の誤作動によって感じる寒さもあり得ます。ガムや飲み物などでハッカやミントを口にした時に「ヒヤッ」とするのもミントに含まれるメントールが冷感受容体を刺激するため。
しかし、こうした内から感じられる寒さがあるのに外からの寒さしか頭にないと、
「寒い」→「厚着」→「まだ寒い」→「もっと厚着」→「まだまだ寒い」→…
延々と続けても寒さを解消することが出来ず、かといって厚着にも限界があって二進も三進もいかなくなってしまいます。
寒がり、厚着の原因
実は、認知症のある老人によく見られるこうした異常ともいえる寒がり方の原因はよくわかっていません。
カラダの冷え
アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管型いずれの認知症にも見られる脳細胞の委縮が体温感知・調節機能を傷害し、見当識障害を起こす。自律神経の機能が低下し、体温調節が出来なくなる。
本記事の話題とは逆の「寒い時に暑がる」とか「骨折しているのに痛がらない」などの例が有りますので、こうした中枢の脳神経系の機能障害を疑うこともできます。
また、体熱を効率的に運ぶための循環系(心臓や血管)の老化によって適切な時に適切なところへ温もった血液を運べないのが原因かもしれませんし、活動量の低下から筋肉量が落ちて体温を上げることができないことが原因なのかも。
はたまた上に挙げたような皮膚に存在する冷感受容体と温感受容体の量的バランス、質的バランスが崩れている末梢の局所作用なのかもしれません。
各自で原因が異なるかもしれないし、全ての例にあてはまる根本的な原因がまだ見つかっていないだけかもしれない。
恒温動物たるヒト
少し脱線しますが、我々ヒトは哺乳類の仲間であり、哺乳類は恒温動物。恒温動物とは、体温を一定に保って生活する動物です。
恒温動物にとって「熱」は切っても切れない関係です。私たちがご飯を食べるのは、第一義的には「熱」を得て身体を温めるためです。「熱」がないと動けないけれど、適度な「熱」さえあればより多くの食べ物を得て熱源にできる。そういう生存戦略を採っているのが恒温動物の仲間です。
恒温動物にとって「熱」は、大事な資源なのです。
こうした観念は、もしかすると認知症を患ったとしても本能的な深い記憶として刻まれたまま残り続けるのかもしれません。
ただし、人間をよく見て見ると地上にいるヒトと同じくらいの大きさの動物(オランウータン、サル、シカ、犬など)に比べて体毛が格段に薄く、「熱」を逃しやすい性質を持っていて、冷えや寒さに弱いと言えるのかもしれません。
知覚される「寒さ」とは、「熱」に対するもったいなさの感覚的表現である…のかも?
「お金を失うのと同等に、熱を失いたくない。」という進化が発達させた深層心理も寒がりや厚着の要因の一つとして仮説的に挙げておきましょう。じゃあ寒い時の「暑がり」は何なのだ、と言われると困りますが…。
「物盗られ妄想」、「金盗られ妄想」などと同列に、「熱盗られ妄想」を並べてみると納得がいくかもしれません。
ココロの冷え
また冷え性の人にありがちなのは、身体の冷えを重視しすぎて心の冷えを見逃してしまうこと。
もしかすると認知症患者のココロも、案外と冷えやすいのかもしれません。
寒がり、厚着の問題点
季節にそぐわない服装だろうが、周囲の者から見た暑苦しさだろうが、本人にとって快適である場合、もしくは不快さを最小限にできていると感じる場合には、ほとんど問題がありません。
自覚される感覚は、本当のところはその人にしか分からないためです。
しかし、近年非常に問題視されている独居老人や高齢世帯の熱中症による死亡事例を見てわかる通り、厚着や不適切な暖房使用による大量発汗が健康に影響を及ぼす場合には注意が必要です。
脱水症状が認知症を進める
脱水症状によって意識レベルが低下し認知症状がひどくなる場合があります。
脱水症状が疑われる場合にもっとも適切な解決策は、しっかりと水分補給をすること。イオンバランスが整った経口補水液を用いても良いでしょうし、ただの飲料水でも構わないでしょう。
もちろん厚着で大汗をかいている場合にもこうした脱水症状が起こり得ますので、水分補給を行う必要があるかもしれません。
見た目に暑いからといって「寒い」と言い張るご本人から服を引き剥がす北風的対処は難しいため、失われた分の水分だけは補充する対処が必要なようです。
ただ、トイレ・おしっこが近くなるなどの理由で嫌がる場合も。そんな時はいつもと違う冷たい水、ぬるま湯、熱めの白湯などを進めてみたり。ゼリー状の飲料を勧めてみたり…。
汗が出ない場合
いえ、もしかすると既に脱水症状が進行しつつあるのかもしれません。
体温が高すぎるのでなければ問題ありませんが、いつもと様子が違ってぐったりしたりしているようであれば、汗が出ないほどに水分が失われつつあることを疑ってみるべきでしょう。
「熱」と同じように、「水分」もまた、人にとって大事な資源の一つです。
寒がり、厚着の解決策(案)
「寒がり」や「厚着・重ね着」。上述のように、進化がもたらした深層心理にその原因があるとしたら。身体の冷えを訴える人の、心の冷えを解消できるなら。『北風と太陽』にみる太陽的対処を考えてみたらば。
もしかすると、解決策は「目・視覚」にあるのかも?
以下、仮説につき
当記事で提示する情報は「仮説」です。何らかの根拠があるわけではありませんので予めご了承ください。
さて、人間には「共感覚」と呼ばれる心理的な現象がみられます。
赤い壁紙の部屋と、青い壁紙の部屋。室温をきっちり同じに調整しても、体感温度は違います。
「赤」のほうが温かく感じ、「青」のほうが涼しく感じる。
こうした色と温感が混ざり合う感覚、味と匂い、味と触覚、その他さまざまな感覚が複数混ざり合って我々の「感じ」を形成していて、これを「共感覚」と呼びます。
じゃあ、何枚もの服を重ね着しても解消されない寒さを「共感覚」で和らげるには、どうしたら良いどうだろう?
認知症高齢者の心に吹き荒れる北風を追いやり、太陽の力を借りるには?
①部屋のあかりをオレンジ色(電球色)にする
最近のLED電球は面白くって、「調色」の機能が付いていれば白色の光とオレンジ色の光を一つのシーリングライトから発することができます。
ただ、特に高齢者の場合、使い慣れていないと急に色が変わっちゃって元に戻せなくなるので蛍光灯で固定するのが良いかもしれません。
②赤、オレンジなどの暖色を内装やモノに採り入れる
初期認知症の対応として、できるだけ環境変化を避けることが推奨されていますので、壁紙を暖色に張り替えるなど大掛かりな変更は避けた方が無難かもしれません。
ただ、日常的に使用するもの、目につく場所に置かれているものを温かみのあるものに換えてみることならできるかもしれません。
最近では暖炉を模したヒーターで目から暖かさを採り入れる商品も販売されています。
お困りでしたら、ご参考まで。