『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』が面白い!プラセボ効果の奥深い話

マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果

本記事では株式会社メディカ出版社様よりご恵贈いただいた『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』(著:山下仁・犬養ヒロ・児玉和彦)を紹介します。

「プラセボ効果」や「プラシーボ効果」という言葉は、初見でどれだけ考えても意味が分かりません。「プラセボ」を知らなければ推測の糸口さえもないためです。

ただ一方で、ちょっとした説明ですぐにわかった気になることもできます。

「へー、プラセボ(プラシーボ)って偽薬のことなんだ。偽薬でも本物のくすりと思い込めば実際に薬効が現れる、思い込みの効果をプラセボ効果って言うんだね!」、と。

しかししかし。その言葉の懐は深く、表面的な理解の向こう側には、真に探求すべき何かがあります。

浅い理解を超えて

表面的で浅い理解には広く知ってもらいやすいという優れた性質があります。プラセボ効果もまた、心がからだに影響を与えうることの事例として、あるいは面白くかつ驚くべき人間心理の一面として広く知られています。

ちなみに『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』でも言及されるとおり、プラセボという言葉を知っている日本人はおおよそ10人のうち3人ほど。既に知っている人にとっては一般常識の範疇とも思われますし、実際にTwitterで「プラセボ」などと検索してみれば、「プラセボ効果かもねー」→「プラセボ効果、知らなかったので調べた」→「え、常識かと思ってた…」といったやり取りが見つかります。

心理学の本に書かれたり、クイズ番組で出題されたり、大学入試の英文読解で扱われたり、最近ではワクチンの治験方法の解説で言及されたり。さまざまなルートでプラセボ効果について知る機会がありますが、だいたいは先ほど示した理解を超えたものではありません。

「プラセボ効果とは思い込みの効果だ」

だがしかし。そうした浅い理解を超えたところに、深みのある世界が広がっているとしたら…?

プラセボ効果の深みへ

「浅い理解」が広く知ってもらいやすいという利点があるのと対照的に、「深い理解」にはとっつきにくさや広まりにくさがあります。これはもうどうしようもなく、ありとあらゆる事柄・ジャンルがそうした性質を抱えているものですが、ことプラセボ効果に関しては医療専門職の人々にとってさえ「深い理解などあるものか、あるとすれば“臨床試験”への深い理解だろう」と思われているフシがあります。

実はあるんです。プラセボ効果自体にも。深みのある世界が。

『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』は実に、プラセボ効果の深みへ軽やかに連れ出してくれる良書です。

本書は一般の方向けとは言い難い高度な内容も含みます。本書の表紙にはタイトルに並んで「これからの医療者必携!」、「プラセボ効果を正しく理解すれば、医療の可能性が広がる!」と医療者向けを謳う文言がつづられていますので、メインの想定読者層が医療者であることは間違いありません。

とはいえプラセボ効果について深く学びたい一般の方でもある程度は理解できるよう、プラセボ効果の深み・面白みを伝える工夫が随所に為され、興味があればぜひ手に取るべき一冊となっています。

マンガ・エビデンス・現場の声

本書の構成要素を紹介しましょう。タイトルで明快に示されていますね。

マンガ

それゆけ!プラセボ
マンガ内参考書「それゆけ!プラセボ」を熟読する野瀬坊氏

犬養ヒロさんの描くひょうきんな登場人物たちのひょうきんな、それでいて芯を捉えたマンガが本書を読み進める上で重要な要素です。

難しいことは難しいので(同語反復)、わからないことだらけの読書は苦痛にもなってしまうものですが、本書のマンガはそれ自体が面白くまた内容の理解を促すよいきっかけとして非常にありがたい存在です。

エビデンス

原案・解説を担当された山下仁先生の手になる、プラセボ効果にまつわるあれこれの詳細解説が本書の核心部分です。「エビデンス」を謳うだけあって、各項に参考文献が複数挙げられるほどしっかりとした内容となっています。

ただし、あらゆるジャンルの共通事項でもありますが、一旦この核心部分に触れてしまうと後戻りがきかなくなります。

「プラセボ効果?思い込み効果のことだよ」という単純かつ明快な説明を自分がすることにためらいを覚えるようになってしまうため注意が必要です。

評者にとって本書の価値は、これまでプラセボ効果の“単純でない”説明の必要に際し口ごもるような状況を繰り返していたところ、これからは「プラセボ効果?これを読むといいよ」と単純かつ明快で率直な紹介に最適な本が現れたことにある…というのはここだけの秘密。

現場の声

医学監修を担当された児玉和彦先生は「臨床医の目」と題して現場の声を届けています。実臨床においてプラセボ効果を考慮すること、またノセボ効果に配慮すること。副題「これからの医療者必携!」の通り、今後ますます重要になる臨床とプラセボ効果のつながりを医師としての経験の中からすくいあげています。

読者となる医療者にとっても、プラセボ効果やノセボ効果について語るべき経験の一つや二つはすぐに思い当たるのではないでしょうか。

おわりに

『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』を紹介しました。

実は一部でプラセボ製薬の製品も参考にしていただいています。

ギーヤック913
マンガ内世界で活躍する「ギーヤック913」

偽薬・偽治療やプラセボ効果の深い理解なしに「良き医療」は構想できません。医療がますます重視される世相において、プラセボ効果に関する書籍の刊行は非常に大きな意義があるように思われます。

多くの人が本書を手に取り、プラセボ効果の理解を深められることを期待しつつ。

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