誰かに決定してほしい。自分では判断がつかないから、他者の決めたルールに従う。
こうした傾向は社会のいたるところで見かけます。もしかするとそれは、人間の本性とさえ言えるかもしれません。
偽薬の正しい服用方法?
本物の偽薬として販売する「プラセプラス」についても、こんな質問を受けることがあります。
「プラセプラス」は差し迫ったニーズがあってこその商品で、服用方法は時と場合によるのだという販売者としての思いは先入観ともなり、こうした質問への回答をためらわせます。「お好きに飲んでくださいね」という回答が、どれほどまで納得いただけるものなのか。
勝手に、自由に、好きに決めてくれ。そんな回答を得たとき、決定基準はどこに置けばいいのか。問題の大小の差こそあれ、自分で何かを決めることは簡単ではありません。
財政破綻、その時
日本の財政は破綻する。
なぜなら、少子高齢化が進展する日本社会の現況と、民主的な制度の維持を考えあわせれば、財政破綻を回避する選択を採れないから。
そう予想する時、小林慶一郎編著『財政破綻後 危機のシナリオ分析』(日本経済新聞出版社)は未来のシナリオを見通すうえで最良の教科書です。
財政破綻、その後
日本の財政は破綻する。
そう予想する時、財政破綻の回避策について絵を描き実現に向けた提案を声高に主張してもあまり意味がありません。回避できないことを予想するなら、破綻した後のことをしっかりと見据える必要があるからです。
その点、本書は『財政破綻後』のタイトルに違わず、未来の想定を財政破綻ありきで語る真っ当な論考集となっています。
役割が振る舞いを決める?
『財政破綻後 危機のシナリオ分析』には、一つの重要な考え方が示されています。
財政破綻のポジティブな側面
日本の財政は破綻する。
これは前提として受け入れざるを得ない。ならば、財政破綻という破局的なイベントを社会変革のきっかけとして活用しよう。
そうしたポジティブな発想は、本書のテーマが必然的に背負う暗さを軽減し希望を抱かせるキーコンセプトとして活用されています。
中でも、「仮想将来世代」の創設は秀逸な発想です。
世代間協調問題
民主主義は、超長期の「時間」の扱いがきわめて不得手である
『財政破綻後 危機のシナリオ分析』(272ページ)
世代をまたいで影響が及ぶ問題を、特に将来世代の負担増を現在世代が意思決定できてしまう問題を、現在の民主制は解決できない。伝統や慣習、文化、宗教がこうした問題の拡大を抑制したきたけれど、現在ではそれらが将来世代に禍根を残す意思決定を制約しなくなってきた。
「次世代のために財政再建する」という事前の約束は、事後に必ず破られる
『財政破綻後 危機のシナリオ分析』(278ページ)
こうした問題意識から提案されるのは、将来世代の代弁者たる「仮想将来世代」の創設です。
これはとても面白いアイデア。286ページからのコラムでは、仮想将来世代を演じた実験グループが実験的におかれた立場に基づいて考え方を変えたという話題も紹介されています。
種本は以下でしょうか。
プラセボ製薬の立場
「自由に決めろ」。「自分で考えろ」。そう言われても何をしていいのか分からない。けれど、「将来世代の立場を代表する」という立場を与えられ、「将来世代の利益を最大化する」目的があれば何をすべきかが分かる。
立場と目的。こうしたことが判断基準になるのだとすれば、どのような立場に立ち、どのような目的を持つのかというメタな決定がその後の行動を決定してしまう。
手前味噌ではありますが、プラセボ製薬が最優先するのは現在世代ではなく将来世代です。
心に仮想将来人を飼う。そうしたことが意識を変える。行動を変える。習慣を変える。将来は果たして…。