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「高次元科学への誘い」と複素効理論

2019年5月に公表された「高次元科学への誘い」。Preferred Networks所属の丸山宏さんが書いたこのブログ記事に関する理解を深める上で、『僕は偽薬を売ることにした』は格好の副読本になるのかなと勝手に考えています。

なぜなら本書は、「科学にとって次元とは何か?」を考えた書籍でもあるからです。

複素効理論

『僕は偽薬を売ることにした』で提示する複素効理論は、一見してそう思われる以上に怪しげな理論です。

虚構とさえ表現できるかもしれません。

複素効理論とは?

複素効理論の詳細は本書に譲るとして、簡単に説明すると以下のようなものです。

プラセボ効果とは、科学的に説明不可能な高次元の対象を意図的に0次元化し捨象した結果、あたかも無から有が生じたように認識される現象だ。

だから、薬効理論においてプラセボ効果を見える化するためには、虚構的に次元を付加してやる必要がある。

ね、怪しげでしょう?

科学にとって次元とは?

複素効理論の「複素」とは、数学の「複素数」から拝借した表現です。

2次元の数の体系である複素数。

しかし多くの科学分野において、複素数が実質的な意味を伴って導入されることはありません。科学的な議論が複素数に基づかないことには理由があります。それは、科学が何を追求するのかという科学の目的から導かれますが、詳細は書籍にてご確認ください。

科学は、本質的な複雑さを点(0次元)と見做し、その点を基準に1次元の差異を重ね合わせて多次元の対象を取り扱います。ものさしとして表現できない2次元の複素数には価値を見出さないのが科学です。

科学にとって0次元(点)と1次元(数直線)の特別視は、科学を科学たらしめる重要なルールです。対照的に、2次元以上の次元はこれまでの科学にとって無価値でした。

高次元の無視こそが、科学を科学たらしめる。前掲ブログ内で「低次元科学」と称される科学のあり方は、科学の目的からすれば極めて妥当なものでした。

高次元科学への誘い

低次元科学を本質的な複雑さを無視して理解可能な対象を浮かび上がらせる試みと考えれば、高次元科学の目指すところがはっきりします。

つまり、これまでの科学が点と見做して無視してきた「本質的な複雑さ」に対するアプローチが高次元科学だというわけです。

プラセボ効果という格好の具体例

複素効理論は多くの方を高次元科学へと誘う、好例になっているのではないかと考えています。

科学が点と見做し捨象してしまう「本質的な複雑さ」からプラセボ効果が生じるのだとすれば、プラセボ効果を説明しようとする複素効理論は必然的に高次元に目を向けざるを得ないからです。

そして、多くの方が既にプラセボ効果がどのようなものであるか、おぼろげにも理解している現状において、プラセボ効果が高次元科学への興味を喚起するきっかけとして格好の具体例を提供できるはずです。

もちろんこの主張は、プラセボ効果を高次元科学の最前線に引っ張り出して目を向けさせたいという著者としてのポジション・トークであることを免れませんが。

副読本としての価値

「高次元科学への誘い」というブログ記事について紹介しましたが、当該記事はとても高度な内容を含んでいます。

「大切なことを書かれているみたいだけれど、何だかとても難しそう」

そんな風に避けてしまう方もいるのではないでしょうか。

もっと身近に感じられる具体例があれば。もう少し時間をかけて丁寧に説明がなされたら。記事の内容を少しでも深く理解し、応用を考慮できれば。

そうした「タラレバ」に応える副読本としての価値が『僕は偽薬を売ることにした』にはあるのではないかと考えています。

なんといっても「プラセボ効果」という興味深い例を題材とし、科学にとって次元とは何かを説明する本書。読了後には、高次元科学の扉の前へと誘われているでしょう。

思い切って扉を開き、進み入る勇気さえ提供できれば著者として嬉しく思います。

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