『僕は偽薬を売ることにした』でプラセボ効果論に新展開を

プラセボ効果論に新展開を導く本

プラセボ効果ってなんだ?

そうした素朴な疑問に対して新たな視点を提供することが『僕は偽薬を売ることにした』(国書刊行会)の目的の一つです。

そして、読後の感想は次のようなものかもしれません。

プラセボ効果って、一体全体なんなんだ???

プラセボ効果の本質論

読者あるいは読者候補に対して言い訳するのもどうかと思いますが、『僕は偽薬を売ることにした』はプラセボ効果に関する最終回答ではありません。疑問がスッキリ解消して完全に納得のいく議論が展開されているわけではないのです。

科学とプラセボ効果

プラセボ効果に関する新たな問い。本書では、まだ誰も問うたことのない問題について考察しています。

それは主に、科学とプラセボ効果の関係性から生じる疑問に基づくもの。

科学と言っても分野ごとに発想も手法も異なります。プラセボ効果と最も関係の深そうな生物系の学問分野からすると、本書はかなり毛色の違う議論が為されていると感じられるでしょう。

本書で企図するのは、プラセボ効果に関する議論の抽象度を高めることです。より本質的な議論になっているはずだと信じます。

数学・物理学への接近

プラセボ効果の現象面のみに目を向けていては、議論の抽象度はどうしても高まりません。抽象的な言葉でプラセボ効果を語る試みが必要です。

そうした抽象的な言葉、すなわち概念を提供してくれる学問があります。

数学や物理学です。

『僕は偽薬を売ることにした』は、プラセボ効果に関する議論を数学や物理学の言葉に還元する試みです。この試みの成否については、ぜひ本書を手に取りお確かめください。

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国書刊行会
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次なる一歩へ

『僕は偽薬を売ることにした』が提示する挑戦的な試みに少しでも価値があるとすれば、それはより豊かなプラセボ効果論への扉を開く蟻の一穴となるかもしれません。

素粒子論的アイデアの導入

そうした期待を込めつつ、本書の内容をさらに深める次の一手として有望だと感じるのは、素粒子論における様々なアイデアを参照すること。

天才や秀才と称される人々が情熱とカロリーを傾け、知恵を絞って繰り出すアイデアには目を見張るものがあります。

  • ゲージ理論
  • 超対称性
  • 対称性の自発的破れ
  • 相転移
  • くりこみ理論
  • ○○○(理解の追い付かない多種多様なアイデア)

物理分野の素人には難しすぎて理解に苦しむ面もありますが、そうしたアイデアを何らかの形でプラセボ効果に関する議論に導入できるとすれば、これほど心強いものもありません。

真の真空

佐藤文隆さんの『破られた対称性』(PHPサイエンス・ワールド新書)という素粒子論や宇宙論に関する本を読みました。

例えば、新書版の88ページ、また170ページ以降に記述された「上げ底真空」や「真の「真空」」に関する議論。これらは直にプラセボ効果に関する議論との接点を提供するかもしれません。

場の量子論の相対主義、差額主義として紹介されるこれらの議論。実は生命科学を含むすべての科学分野において考慮されなければならない視点です。もちろん、医科学的な研究においても。

『僕は偽薬を売ることにした』で扱うプラセボ効果の実態は、この「真の「真空」」の医科学版なのです。

真空には何もなく、何事も起こることはない。そうしたナイーブな「真の「真空」」観は、場の量子論において否定されているようです。

一般に信じられているプラセボ効果観にも変革を迫る。さらに素粒子論との接点を導入し、物理学だけでなく数学的な概念までをもプラセボ効果論につなぐこと。

プラセボ効果研究は、『僕は偽薬を売ることにした』の刊行をきっかけに大きく変容するだろうと予想します。