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無を通じて実から虚を覗く『僕は偽薬を売ることにした』

『僕は偽薬を売ることにした』執筆中、虚構新聞さんの興味深いお詫び記事に触れました。

「ジョン・ケージ「4分33秒」トリビュート盤発売が決定」についてお詫び
虚構新聞(2019.01.18)


実に面白い。

虚構新聞

虚構新聞は、虚構新聞社が運営するWebメディア。虚構世界の現実を伝えることを目的としているそうです。

虚構世界の現実

「虚構世界の現実」とは、どういったものでしょうか。虚構新聞サイトのトップページに2019年7月18日現在掲載されている人気記事ランキングは以下の通り

住宅街に野生のネコ出没 警戒呼びかけ 東京・世田谷区
選挙カーから逃れて… 「静穏の島」に8万人殺到 小笠原・義妹島
強風すぎる手持ち型扇風機 利用者が空飛ぶトラブル相次ぐ
天の川、星位低下で渇星対策本部 384年ぶり
ナローバンド導入で作業効率劇的改善 不渡商事、「奇策」が奏功
一見して普通のニュース…ですが、よく見るとなんだかおかしな点に気付きます。例えば「住宅街に野生のネコ」が出没するのは、ある意味で日常のはずです。

「サル」や「イノシシ」であればニュースになるけれど、「ネコ」にニュース価値はない。と判断するのが現実世界。虚構世界では、「ネコ出没」がニュース扱いさているようです。

実に面白い。

誤報記事

報道には裏付けが欠かせません。現実世界の現実を伝えるメディアの場合、多大なコストをかけて裏取りしているはずです。

しかし虚構世界の現実を伝える虚構新聞においては、裏取りに困難が付きまといます。虚構を虚構として伝えようとして、誤って現実を虚構として伝えてしまう。裏取りの難しさは、時に誤報という結果を生じています。

冒頭で紹介した記事もその一つ。

2015年に虚構として公表した記事が、2019年時点では現実となっていることをお詫びする記事です。

無を扱うことの困難

虚構新聞の誤報記事として扱われたのは、ある種の無に関する事柄です。

音楽的な無

記事タイトルにある、ジョン・ケージ「4分33秒」。現代音楽の記念碑的作品の題名が示すその時間は、この曲の演奏時間を示しています。

4分33秒。

そして同時に、無音が続く時間でもあります。この曲は、4分33秒間の無音のみからなる特異な曲なのです。

無音の音楽を商品として販売するのは難しいでしょう。虚構新聞の報道が、当初は無音の音楽を商品化してしまったという虚構世界の現実として受け入れられていたのは無理からぬことです。

しかしその後、「4分33秒」を扱うアルバム作品が現実に現れたため、虚構新聞としては誤報扱いにせざるを得ない状況になってしまったのでした。

薬理学的な無

さて、プラセボ製薬が扱う偽薬もまた、ある種の無に関わっています。偽薬には薬理学的な効果を有する薬効成分が含まれず、基本的には効かないこと、つまり無効性が期待されるからです。

偽薬とは、薬理学的な無なのです。

そのことには以前から気が付いていました。そして、ある種の無を商品とすることの困難についても。

無から覗く虚実の世界

もちろん虚構新聞の誤報記事は、多くの人にとってジョークの一環として受け止められています。

しかし、薬理学的な無を扱う僕には、単なるジョーク以上の示唆に富む出来事に思われました。

虚から実

虚構世界から、音楽的な無を通じて、現実世界を覗き込んでしまった。

そんな風に感じられます。無は、虚構と現実をつなぐ穴であり、じっと覗き込んでみれば、虚構世界から現実世界が垣間見えてしまう。そんな覗き穴としての機能が無にはあるのかもしれない。

実から虚

虚から実が可能なら、実から虚はどうだ。そんな疑問が湧いてきます。

現実世界から、無を通じて、虚構世界を覗き込む。

そんなことが可能でしょうか。そして今、手元にある無は、薬理学的な無であるところの偽薬です。

現実世界から、薬理学的な無を通じて、虚構世界を覗き込む。

そんなことが本当に可能でしょうか。

実としての科学

『僕は偽薬を売ることにした』には、その回答を記しています。

特に現実世界で重視される科学に立脚し、科学的な無を通じて、虚構世界を覗き込むことを企図しています。

薬理学的な無が偽薬なら、科学的な無とは何か。

覗き込んで見えた虚構世界とは、一体どのような姿なのか。

ぜひ、『僕は偽薬を売ることにした』でご確認ください。


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