コーヒーやお茶に含まれるカフェインには頭をスキッとさせるような覚醒効果があるやないや様々な意見があります。
しかし、日常生活においては目覚め効果があると感じられていればそれがカフェインの作用だろうがプラセボ効果だろうが関係はありません。
今日も今日とて、コーヒー党
コーヒー飲んどけば眠気に耐えられるのだと信じられるのであれば、信じていた方がよりよい生活を送ることができるでしょう。作家・川上未映子さんのエッセイでは、過眠に悩む著者に友人が答えて言います。
「あのねえ、大人はみんな眠いの。全員。みんなコーヒーで生きてんの。あなたみたいに昼間とか道とかで眠るわけにいかないから、みんな飲みたくもないコーヒー飲んでんの。がぶがぶがぶがぶ毎日毎日。人間はコーヒーで生きてんの」。
『オモロマンティック・ボム!』(新潮文庫)
逆に、コーヒーやお茶のカフェインによる居眠り防止策が効かない場合には新たな対抗策を見つけなければなりません。
カフェインは脳よりも血管に
カフェインの薬理学的作用
コーヒーに含まれるカフェインは脳のアデノシン受容体に拮抗することで覚醒作用を発揮し…などとカフェインの眠気覚まし効果が薬理学的に語られる場合があります。
しかし、実は脳以外にも働いている部位があります。
血管です。
カフェインは血管を収縮させ、血流を変化させる働きを持っています。
末端から体幹へ
カフェインによる血管収縮作用は手足などの末端部分の毛細血管に強く作用し、末端(手~腕、足~脚)の血液循環を抑制して体幹部分へ移行させます。
コーヒーを飲んだ後って、手足が冷える感じがしませんか?
それは血管が縮んでしまって、熱を伝えてくれる血液が一時的に十分に行き届かなくなっているからだと考えることができます。
またコーヒーを飲むとおしっこが出やすくなりトイレが近くなるのは、血管容量が低下した結果、余った水分を体外に排出するために他なりません。
さらに、眠気解消作用も血流の変化によって説明することが可能です。
眠る時、血管は広がる
ヒトは睡眠時に体温を低下させるために体幹部から末梢へ高温(=深部体温)の血液を移行させ、熱を逃がします。
カフェインの作用とは反対の仕事をしなければならないのです。
カフェインは「眠り」に移行する身体を「覚醒」に留め置こうとする働きをしてくれます。
では逆に、「より眠りやすくする」施策をすれば、短時間の仮眠や昼寝制度の実効性はあがると考えることができるでしょう。
そんなものはあるのか?
ですよね。
だから、もっと単純なものが良いんです。シンプルでお手軽な、ぬるま湯が一番いいんです。
カップ二杯分のぬるま湯を
ぬるま湯は血管容量を増すために必要な「水分」と、体外に捨てるために必要な「余熱」を含んだ一番ピュアな飲み物であり、これで必要十分だったりします。
体温より少し高めのぬるま湯・白湯をじっくりと身体に取り込み、血行を良くして入眠に必要な体温低下が起こりやすい環境をつくってやる。
もちろん、プラセボを一緒に飲んだって構いませんよ?
眠りたいときに眠るために薬物を使う時代は、近々昔話になってしまうことでしょう。生理学の知見にもとづく、より自然な導眠法があるのだから。使わない手はありません。
カフェイン毒物仮説
さて、もう少しカフェインの作用について考察を深めてみましょう。
メインテーマは「なぜカフェインが効かないのか」です。
カフェインは効かない?
カフェイン入りのコーヒーや紅茶、緑茶を飲めば瞬時に眠気が飛び去ってバリバリ目が冴えてしまう方がおられる一方、全然カフェインの覚醒効果を感じられない人もおられます。
なぜでしょう?
これは実証的根拠の無い仮説であり物語(ナラティブ)的要素の強い仮説ですが、カフェインが利かない理由の一つは「カフェインが弱い毒物だから」かもしれません。
毒物は体外へ
口から取り込んだカフェインは体内に蓄積されることがありません。肝臓等で代謝され、尿酸として尿中に排泄されてしまいます。
なぜか?
カフェインを体外に排出すべきだと身体が反応しているからです。
この異物を排出しようとする働きは、広く一般に様々な食品含有成分を対象に行われますが、それらを総称して「毒」と呼びましょう。
この定義においては、ほぼ全ての薬物も「毒」の範疇に入ります。「毒」以外の栄養は、数えるほどしかなくなってしまいます。
この「毒」の広い定義をここでは採用しましょう。
糖分や脂肪分やタンパク質のように体内へ積極的に蓄積しようとするものではなく、一旦取り込んでもすぐに体外へ捨て去ろうとするものをここでは「毒」とします。
なお、日本国内でもエナジー飲料等の過剰服用によるカフェイン中毒死が起こっています。
そうした意味でも「毒」とすることに大きな障害はないでしょう。そもそもカフェインを含む植物アルカロイドには毒的作用のあるものが結構存在しています。
カフェインの覚醒作用
さてカフェインは毒物であるという視点からカフェインの作用を改めて眺めてみましょう。
なぜ覚醒作用があるのでしょうか?
一般的には「アデノシン受容体への拮抗作用」と説明されることがありますが、この受動的身体観をひっくり返し、能動的身体観から覚醒作用を眺めてみましょう。
我々の身体は周囲の環境にさらされ受動的に「される客体」であるばかりではありません。環境に働きかける能動的な「する主体」でもあるためです。
そんな能動性を身体作用の解釈に加えて見えてくる仮説、それは、カフェインによる覚醒作用は毒物たるカフェインの体外排除作用を高めるため…となるでしょうか。
カフェインのせいで目が冴えてしまうのではありません。
カフェインを追い出すために、身体の働きを高めるのです。眠っていては、毒物に長く曝されてしまうから。
カフェインの身体作用
また覚醒作用以外にもカフェインが利く箇所があります。これらの結果、利尿作用がもたらされます。
- 心筋収縮力の増大
- 気管支平滑筋の弛緩
- 脳細動脈の収縮
さて、なぜ利尿作用があるのでしょうか。
もうおわかりですね。
積極的に毒物たるカフェインを体外へ排出するためです。
こちらも覚醒作用と同様、一般的には「される客体」としての身体観に基づく薬理作用によって、「○○受容体への作用…」などと説明されますが、これを能動的に解釈するなら、覚醒した身体が真剣に排泄を行うという物語に利尿作用を上手く織り込むことが可能でしょう。
カフェイン代謝の興味深い事実
また、こんなことも言われています。
ヒトの場合、カフェインの代謝に関わる肝臓に発現している薬物代謝酵素の一種であるシトクロムP450のCYP1A2は、妊娠すると、その量が減ることが知られており、カフェインの代謝は遅くなる。
また、CYP1A2は、ヒトでは1歳になる前までに成体と同じレベルの量に達するものの、それ以前は少なく、特に出生前(胎児)のカフェインの排除能力は成体と比べて著しく低い。
その反面、1歳過ぎから思春期の頃までは、カフェインの排除能力が成体よりも高くなることが知られている。
なお、カフェインの排除能力の低いヒトの胎児では、CYP1A2による酸化とは全く別に、メチル化するという代謝経路も利用されることが知られている。
『カフェイン – Wikipedia』
妊娠時は異物への反応が変化するようです。
また胎児は異物を異物として排除する能力が生体と比較して著しく低い。これは免疫系の発達や異物に関する代謝酵素のディープ・ラーニングの例とも言えるかもしれません。
さらに胎児期に著しく低い排除能は、反面、1歳過ぎから思春期の頃までは、カフェインの排除能力が成体よりも高くなることが知られているそうです。異物に対する積極的な排除は、成人前により強く現れるようで。
弱い毒物への反応性
さて、ここまでカフェインが毒物であるとして身体の反応を見てきました。
カフェイン摂取がもたらす主な作用は、積極排除モードへの身体モード転換であると言えそうです。
しかしそもそも本節のメインテーマであった「なぜカフェインが効かないのか」とは相反する結果のようにも思われます。
なぜでしょうか?
それは、カフェインが毒は毒でも「弱い毒」だからかもしれません。
弱い毒に対しては、それほど大きなモード転換をしなくても何とかなると身体が判断しているのでしょう。あるいは、過去の経験から何ごとかを学び慣れてしまったのかもしれません。
いずれにせよ、コーヒーに含まれる程度の含有量ではそれほど強い毒性がないカフェインに対して身体を過剰反応させる術は恐らくありません。
- なぜカフェインが利かないのか
- なぜコーヒーを飲んでも眠気が取れないのか
そうした疑問を既にお持ちの方は、カフェイン摂取量を増やしたりコーヒーの飲用回数を上げたりするより、上で述べた「あえて眠る」を実践されることをまずはススメします。
真剣さを取り込む方法
カフェインという毒に対して身体が真剣に取り組んでくれないけれど、なんとかコーヒーと上手く付き合うことができたなら…嘆くなら、こういう解決策はいかがでしょう。
コーヒーを、極める。
あなたは眠気を散らしてくれることを期待しつつも、缶コーヒーやコンビニ、コーヒーショップで買ってきた紙コップのコーヒーを漫然と飲んでいませんか?
味わいなんてそれほど気にすることなく、匂いだって嗅ぎ分けることなく。
漫然とした取り組みで真剣な結果が得られることはありません。
真剣に取り組んでこそ、真剣な結果が返ってくるはず。
コーヒーを、極める。
コーヒーに即物的な効果を求めるのではなく「おいしさ」を求めることから、はじめてみませんか?